実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『哀しき獣(황해)』(羅泓軫)[C2010-71]

TOHOシネマズ六本木ヒルズで、羅泓軫(ナ・ホンジン)監督の『哀しき獣』(東京国際映画祭/公式)を観る。第24回東京国際映画祭のアジアの風部門アジア中東パノラマの一本。

羅泓軫監督の前作『チェイサー』は観ておらず、この作品についても予備知識なしに観た。すると、主人公は朝鮮族の中国人という設定で、冒頭の舞台は延吉市(吉林省延辺朝鮮族自治州延吉市)だった。くすんだ風景がかなりいい感じで、なにか得した気分である。

韓国の田中邦衛ことハ・ジョンウ(河正宇)が、妻を韓国に行かせるための借金と引き換えに殺人を請け負い、音信不通の妻探しも兼ねてソウルへ行く、というお話。計画を練っているあいだにターゲットが殺され、あちこちから追われる身となり、妻と再会する望みも絶たれる。戻る道もない、進む道もないという状況のなかで、彼は真相を知りたいと思う。誰が自分を雇い、誰がターゲットを殺したのか。そのために彼は逃げ、生きる。真実を知るということは、人間の本能であり、尊厳に結びつくものだと思った。

とにかく、血まみれで壮絶な映画である。血まみれだけど、痛いところは見せないのがうまい。だからぜんぜん目をそらさずに観ることができる。そしてとにかく、命が安い。中国では命が安いと感じるが、朝鮮族の命は漢民族よりさらに安い。韓国へ行けば、韓国人の命より安い。肌の色とか言葉とか、わかりやすい人種差別と違って、韓国人、朝鮮族脱北者など、同じ民族、同じルックス、同じ言葉でヒエラルキーができている韓国社会はしんどいなあと思う。

かなり絶望的だが、否応なしに引きこまれるせいか、すごく元気の出る映画。実は始まる前に「なんか体調悪いかも」と思ったのだが、始まったらそんなことは忘れてしまい、終わったときにはものすごく元気になっていた。ハ・ジョンウが食べるカップラーメンがすごくうまそうに見えるしね。

ハ・ジョンウは、『素晴らしい一日[C2008-43]ではそんなに田中邦衛ではなかったけれど、今回はもう、田中邦衛以外のなにものでもないという感じだった。

来年1月に一般公開が決まっているが、細かいところを確認したいのでもう一度観たいかも。

上映後にQ&Aがあったが、晩ごはん&次の映画のためパス。