実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『占い師(算命)』(徐童)[C2009-53]

ポレポレ東中野で開催されている中国インディペンデント映画祭2011(公式)で、徐童(シュー・トン*)監督のドキュメンタリー、『占い師』を観る。

足が不自由な占い師・厲百程と妻、占いの客などを描いたドキュメンタリー。厲さんは、顔は似ていないけれど、小っちゃくて顔が丸くてかわいらしい感じが連碧東を連想させる。

夫婦が住んでいるのは河北省廊坊市三河市燕郊鎮。北京の郊外である。けっこう年取ってから結婚した奥さんは、知的障害があってからだも不自由だ。厲さんは彼女と結婚した理由について、「虐待されていると聞いてかわいそうだったから」「そばに女性がいるとしあわせだから」と話す。自分でできるから奥さんが家事ができなくても問題ないとも言う。殊勝な人だなあと思う。しかし厲さんの占いだけで彼女を養っているわけではない。お祭りなどに占いの屋台を出すとき、奥さんは「バカ生き仏」というタスキをかけて物乞いをさせられる。「おばあちゃんもけっこう稼いでくれますしね」という感じである。厲さんが気をつかう彼女のヘアスタイルも、単にかわいく見えるというだけでなく、より多く施しがもらえるようマーケティングした結果である。そして監督がかなり露骨な質問をすると、厲さんは「なんのために結婚したと思ってるんだ」と吐き捨てる。安い結納金でヨメを貰ったほうが、娼婦に金を使うより安上がりというわけである(そうはっきりは言わないけれど)。厲さんが言っていることは、矛盾するようでどれもほんとうだし、彼にとってはごく自然に共存しているものだと思う。

厲さん夫妻はやがて、河北省秦皇島市青龍滿族自治縣の奥さんの実家に帰省する。厄介者をもらってくれたありがたいお婿さんだからか、それともカメラがついてきているからかわからないが、兄夫婦は厲さんたちを歓迎光臨する。特に、賀原夏子みたいな嫂は、とても愛想よくふたりを迎える。だけどわたしたちは知っている。実家で彼女がこの人たちに虐待されていたことを。そして嫂が「ゆっくり休んでね」とニコニコしている横で、「彼女が住まわされていたのはあの小屋だ」と指さす厲さん。

家に戻った厲さん夫妻は、今度はお祭りに稼ぎに行く。家では手相などを見ていたが、今回は馬をかたどった道具を使って占いをする。このお馬さんが風に揺れているショットがとてもよかった。

この映画は、底辺でしぶとく生きる庶民を描いたというより、人間というものがいかに矛盾に満ちた複雑な存在であるかを魅力的に描いたドキュメンタリーだと思う。

なお、映画のなかで、“美酒加咖啡”、“往事只能回味”などの古い台湾ポップス(たぶん)が流れる。

上映前のロビーに、ポレポレ東中野には著しく不釣り合いな、派手で存在感のあるおねえさんがいるなあと思ったら、映画に占いの客として登場し、逮捕後行方不明と説明されていた唐小雁さんであったらしい。上映後のQ&Aに徐童監督とともにゲストとして参加されたようだ。Q&Aはパスしたのでちょっと惜しいことをしたが、この時間に晩ごはんを食べないと時間がないのでしかたがない。



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