実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『書記(書記)』(周浩)[C2009-52]

ポレポレ東中野で開催されている中国インディペンデント映画祭2011(公式)で、周浩(チョウ・ハオ/ジョウ・ハオ*)監督のドキュメンタリー、『書記』を観る。

河南省信陽市固始縣の書記、郭永昌(グオ・ヨンチャン*)氏を描いたドキュメンタリーで、任期終了直前の3ヵ月間、彼に密着して撮られたもの。誘致する企業の責任者との面会、接待の宴会、住民の陳情への対応、送別会など、こんなところまで映していいのかというところまで詳細に見せられる。

人の上に立って成功する人物は、主に次のどちらかのタイプであると思う。第一のタイプは、非常に優秀で聡明で、独創的なアイデアを出して自らそれを実現できる人。演説や挨拶にしても、本当におもしろく心に残ることを言える人。第二のタイプは、凡庸でロクでもないことを心からいいと信じ、突き進んでいける人。バカバカしい教訓などをくだらないと思わず、いいと思って話すことができる人。郭永昌は明らかに後者のタイプ。

既得権益を守ることや私腹を肥やすことに一生懸命になるわけでもなく、とにかく仕事熱心でパワフル。企業を誘致したり高層マンションを建てたりすることが本当に地元のためになるのか、などと疑問に思ったりしないから、どんどん契約が成立し、固始縣には発展という名の無味乾燥な風景が広がる。決断が遅い人は、必ずしも優柔不断なわけではなく、いろいろな可能性や問題点まで考えてしまって決められなくなったりするのだが、彼はそんなことはないから決断も早い。永遠に続くかのような宴会や、顔にケーキのクリームを塗りたくるドリフのような余興も、心から楽しんでやることができる。彼の業績がいかにすばらしかったかというお別れの挨拶をされて、心から感動して涙を流すこともできる。すなわちとことん俗物で、とことん人間くさい。だから見ていて本当の意味で感心したり共感したりはしないけれど、なかなか楽しませてくれる。

今後の出世間違いなしといった感じで送り出された彼は、その後固始縣での収賄容疑で有罪になり、現在服役中だというテロップが最後に出て、予想を超える劇的な幕切れ。監督の話では、額はたいしたことはなく、政治闘争に敗れた結果といった感じらしい。実際映画のなかに、任期中にもらった金品を整理して、離任後に返すように部下に指示する場面がある(この部分は映像なし)。あとで返すくらいなら最初からもらわなければいいと思うが、とりあえずもらっておかないと物事がうまく進まないのだろうか。もしかして、ここで頼まれた部下がきちんと返さなかったのかもしれない。あるいは、このシーンで、「これは何だっけ?」とか「誰にもらったか忘れた」とかいった台詞があったので、こういう管理の杜撰さが、彼を陥れるのに利用されることになったのかもしれない。



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