実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『スプリング・フィーバー(春風沉醉的夜晚)』(婁[火華])[C2009-24]

近所のカフェで昼ごはんを食べたあと、J先生は『ザ・コーヴ』に行き、わたしは続いて東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で婁[火華](ロウ・イエ) 監督の『スプリング・フィーバー』を観る。昨年の東京フィルメックスで『春風沈酔の夜』のタイトルで観て以来の二度め。秋に一般公開されるのはうれしいが、邦題の変更は納得しがたい。Twitter上でも批判多数。

基本的な感想は、前回(id:xiaogang:20091128#p4)と変わらない。風にそよぐ樹々、蓮の花、春の雨……。春のぬるい感じの空気感がたまらなくいい。主要な5人の登場人物のなかで、中心になっているのは江城(秦昊)だが、今回はとりわけ彼が印象的だった。彼もほかの人たちと同様ゆれ動いているし、そもそも彼が、ほかの人たちをゆれ動かせているともいえるのだが、その結果として自分に返ってくるものを、ひとりで引き受ける覚悟みたいなものが感じられ、その孤独に耐えている感じが強く印象に残った。

また前回も思ったことだが、この映画のみかたとしては、王平(吳偉)の妻・林雪(江佳奇)の視点で観るというのもあると思う。というのも、昨今では、夫に男の愛人がいたなんてことはけっこうありそうなことに思えるから。そのときに林雪のように慌てて「変態」などと叫んでしまわぬよう、覚悟しておいたほうがいいと思う。

この映画は、『欲望の翼[C1990-36]や『ブエノスアイレス[C1997-04]を連想させるという意見が以前からあるが、『ブエノスアイレス』に関しては、わたしはそう感じなくもないという程度だった。『欲望の翼』に関しては、婁[火華]が王家衛(ウォン・カーウァイ)を真似ているというよりは、羅海濤(陳思成)が張國榮(レスリー・チャン)を真似ているのだと思う。影響を受けているという意味では同じことかもしれないが。

上映後は、秦昊(チン・ハオ)と陳思成(チェン・スーチョン)をゲストにQ&Aがあった。秦昊は、撮影後に垢抜けたのか、映画の中よりもかっこよかった。張震(チャン・チェン)に似ているという声が多く聞かれるが、わたしはどちらかといえば劉徳華(アンディ・ラウ)を連想する。陳思成は、映画の中ではどうも渡辺満里奈のダンナを連想して嫌だったが、実物はそういう印象はなくて、かなり南方系というか東南アジアっぽい雰囲気だった。

Q&Aのいちばんの収穫は、江城と羅海濤と李靜(譚卓)が旅に出るときに渡る橋が、やはり南京長江大橋だということが確認できたこと。司会の人は、橋の社会主義リアリズムの装飾に異様に固執していて、目のつけどころはいいのだが、ああいうものは中国ではぜんぜん珍しくないということを知らないらしい。

ところで、今日この映画祭に行って思ったことだが、いまや同性愛を扱った映画はすごく増えていて、それらがすべて同性愛者の監督によって撮られているわけでもないし、必ずしも同性愛者の権利だとか苦悩だとかいった深刻なテーマを扱っているわけでもない。そのような監督にとって、同性愛を取り入れるいちばんのメリットは、少数の登場人物で複雑な関係を描けることではないかと思った。

渋谷で買い物したあと目黒へ移動。今回の帰宅の第二の目的はとんきだったのだが、行ってみたら定休日で激しくショック。今後の予定をとんき中心に組み変える必要がありそうだ。適当にタイ料理を食べて帰る。