『岩波講座 「帝国」日本の学知 第5巻 東アジアの文学・言語空間』をやっと読了。ぜーぜー。
岩波講座 「帝国」日本の学知〈第5巻〉東アジアの文学・言語空間
- 作者: 山本武利
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/06/27
- メディア: 単行本
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収められている8本の論文は、それぞれ興味深い内容なのだが、戦後の話も多く、「「帝国」日本の学知」というテーマとずれているような気がする。そのせいか、全部を読んでも「東アジアの文学・言語空間」の全体像が浮かび上がってくるように感じられないのが残念だ。
この本を読んだ一番の目的は、黄淑嫺:『東アジア諸都市の戦後映画交流史 - 五、六〇年代に香港・東京を越境した女性たちを中心に』である。特に目新しい内容ではなかったが、宝田明と尤敏(ユーミン)の香港三部作、特に『ホノルル・東京・香港』をもう一度観なおさなければ、と思った。
このほかでは、フェイ・ユエン・クリーマン:『戦後の日本語文学 - 在外日本人作家・在日外国人作家を中心に』と、荒井茂夫:『南洋の北京語文学』がおもしろかった。在日コリアンと南洋華人のアイデンティティに関する(目新しいわけではないが)興味深い記述を引用しておく。
過去二十年間に出現した日本人アイデンティティへの同化傾向の加速は、「在日」青年が日本人になることを要求していると言うよりも、彼らの中で名目上日本人となることを選択すると同時に朝鮮的遺産を心で維持することができるという自覚と自信が育ってきていることに、おそらく関わっているのだろう。(『戦後の日本語文学』p. 131)
華人は在住国民として現地の政治社会に深く関わり、原住民族の言語文化に共鳴することもできるし、同時に伝統的中華文化と言語の存続に愛惜を表現する複合的なアイデンティティを持ち、その濃淡は人と時代によって異なる。(『南洋の北京語文学』pp. 252-253)