実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『兼業詩人ワタナベの腹黒志願』(渡邊十絲子)[B1253]

『兼業詩人ワタナベの腹黒志願』読了。

兼業詩人ワタナベの腹黒志願

兼業詩人ワタナベの腹黒志願

以前ウェブマガジンに連載されていて、楽しみに読んでいたエッセイが単行本化されたもの。そのウェブマガジンを読んでいたのは四方田先生の連載が載っていたからだったが、ある日たまたま読んだこの連載がおもしろく、J先生にも教えてあげた。そうしたらいつのまにかJ先生もファンになっていて、いつのまにか単行本まで買っていた。連載時のタイトルは『詩人の悪だくみ』。単行本としてはシンプルすぎるという判断で『兼業詩人ワタナベの腹黒志願』になったのかもしれないが、どうみても『詩人の悪だくみ』のほうが秀逸である。このタイトルのおかげで、著者はわが家で「詩人」と呼ばれている。本来「a 詩人」であるはずの彼女が、このタイトルで「the 詩人」になったのだ。

連載時に気に入っていたのは、考え方や好みにわたしと共通するところがあったからだと思う。しかしあらためて読んでみると、全然違うところが目についた。いずれにしてもユニークな方である。詩人(と呼ばせていただきます)のダンナさんもなかなかユニークな方のようで、時々登場するのが楽しみだ。どうやらダンナさんがごはんを作っているらしいところも好感度大。単行本収録にあたって取捨選択が行われているが、なぜかギャンブル好きのところがごっそり削られている(そのかわりボクシング好きが強調されている)ところに謀略の匂いがしないでもない。

ここで内容について語るつもりはない。自分なりのこだわりがあり、最近の風潮に違和感を感じており、かつ保守的でない人ならきっとかなりおもしろく読めると思う。でもひとつ詩人に助言したいことがある。それは、洗面台のブラシの置き場所についてである。詩人は「洗面台が安物でブラシを置くところがない」と繰り返し書いている。しかし、ないほうがふつうではないかと思う。うちの洗面台にもないが、もっと安物の、前の家のにはあった。なくても、ブラシや化粧品用のペン立てみたいな収納用品が無印良品で売られている(ロフトやハンズにも売っている)。ブラシを置く場所が決められているよりは、好きな場所に置けるほうが便利である。

言葉には厳しい詩人であるが、漢字の間違いを一箇所、言葉の間違いを一箇所見つけた。別に責めているわけではありません。私も言葉には厳しいつもりだが、時々間違えて速攻で直している(間違いがあったらご指摘いただけると幸いです)。

それから、今回単行本で読んでみてなんとなく前は感じなかった違和感を感じた。ウェブマガジンでは気にならなかったのに、文体のテンションが高すぎると感じる反面、すきまというか空白というかそのようなものを感じる。要するにこれはWebの文体であり、文体と見た目が合っていないのではないかと思う。横書きで、字がもう少しぎっしり詰まっていて、スクロールはしても1ページに収められている文章。それが縦書きで、明朝体で、空白が多く、数ページにわたって配置されていると、なにか違うんである(詩人風)。最近ブログ本などもいろいろ出ていて、わたしはそれらを手にとってみたこともないが、たぶん気に入っているブログが本になっているのを見たら、同じような感じをいだくのではないかと思う。Web上の連載やブログを本にするときは、もっとブラウザ画面っぽい(雑誌っぽい?)紙面づくりをしたらいいのではないだろうか。