『往復書簡 いつも香港を見つめて』読了。
- 作者: 四方田犬彦,也斯,池上貞子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/06/25
- メディア: 単行本
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也斯氏の本名が梁秉鈞(リョン・ピンクヮン)であることは中を読んで初めて知ったが、梁秉鈞氏といえばわたしは前に講演を聴いたことがある。タイトルは『王家衛が描く香港』。内容はココに採録している(id:xiaogang:20050314#p1にも言及あり)。
著者ふたりは専門および関心分野がかなり近く、かつ広い。文学や映画から料理まで、話題はどんどん広がり、いろいろなものがつながっていく。話題の幅広さと、もうひとつ、あくまでも個人的な経験や思考に基づいて書かれている点がこの本のおもしろさだと思う。
この本に出てくる固有名詞や物の名前を適当に挙げてみる。
北角、『香港クレージー作戦』、香港仔、銅鑼灣、大丸、ウィーン、鴛鴦茶、クイーンズ・カフェ、アッバス・キアロスタミの『5』、月島、佃島、『東京暗黒街 竹の家』、吉本隆明、西九龍、旺角、[石本]蘭街、方育平の『半邊人』、新宿、譚家明の『最後勝利』、WTO会議、村上春樹、ハーヴァード、中環のスターフェリー乗り場、譚家明の『父子』、始皇帝、黎鍵、王家衛の『2046』、李滄東……
問題提起が次々になされるだけで、それぞれが深く掘り下げられることはないので、ある意味物足りないといえば物足りない。しかしそれはこの本の性格上やむを得ないので、個々の問題についてはまた別の書物で論じられることを期待したいと思う。
香港も日本もナショナリズムの波にさらされていて(背後に強力な意志の感じられる大陸のナショナリズムと、抽象的なスローガンを一皮むけば何もなさそうな日本のナショナリズムとでは質的にかなり異なるような気はするのだが)、それに抗していくには、複数の文化や社会や言語を知り、それらを比較して共通点や相違点を見いだす目を養い、ものごとを見る複数の視点を獲得することが必要だ、といった思いが、この本の根底にあるように思われる。
考えてみれば、これまでに読んだ香港についての本はたいてい日本人が書いたものだった。香港人が見た香港が描かれているという点でも興味深い本である。