実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『雲水謡(雲水謡)』(尹力)[C2006-39]

またもSoup Stock Tokyoで晩ごはんを食べ、恵比寿へ移動。今日の3本目、映画祭11本目は、「2007東京・中国映画週間」の『雲水謡』。この前は20分前開場だったのに今日は10分前で、しかもそんなことはどこにも書いてない。不親切はなはだしい映画祭である。かなりすいていて、観客は中国人が多い。

私がこの映画を観ようと思ったのは、冒頭の舞台が台湾だったから。大陸の映画で台湾がどのように描かれているのかが見たいというただそれだけであり、映画自体には全然期待していなかった。だから、尹力(イン・リー)監督の辞書に「淡々」とか「控えめ」とか「直接見せずに描く」とかいった言葉がなかろうと、音楽のつけ方が言語道断だろうと、ラストシーンが「なんじゃこりゃ」だろうと、いちいち文句はつけないことにする。

映画はたぶん1946年の台北を舞台に始まる。映画ではちゃんと「1940年代後半」と出ていたが、プログラムには「1940年代の台湾」と書いてある。同じ40年代でも、前半か後半かでは国も時代も違うのに、この書き方はあんまりだ。実際私は前半だと思っていて、主人公は抗日運動のために大陸に渡るのだろうと想像していたら全然違っていた。

台北の街はセットと、おそらく厦門(アモイ)あたりのロケだと思う。全然台北には見えないが、“美人座”とか専売局とかの宣伝が貼ってあったりして、それなりに努力のあとは見られる。主要な登場人物は本省人だと思われるが、みなたいへん流暢な北京語を家の中でまで話している、ありえない状況。ツボだったのは、国民党の兵士を満載した車がやってきて、売られているバナナを見て口々に「バナナ、バナナ」と言うところ。

お話は、医学生の陳坤(チェン・クン)が家庭教師先の娘の徐若瑄(ビビアン・スー)と結婚の約束をするが、二・二八事件で追われて大陸に渡り、その後一生会えない、というもの。老人になった徐若瑄=歸亞蕾の姪である梁洛施(イザベラ・リョン)が、両岸三地を飛び回って叔母の過去を探り、昔の恋人の行方を探し当てるという構成をとっている。ごく簡単ではあるが、大陸の映画で二・二八事件が描かれている点は興味深い。もっとも、陳坤は徐若瑄にうつつをぬかしていて、台湾の将来を憂えたりするシーンもないので不自然だし、二・二八事件で弾圧されたのが明らかな左翼だけのようにみえることなど、文句を言えばきりがないほどある。

無事に大陸へ逃れた陳坤は、医師として朝鮮戦争に従軍したかと思うと、次はチベットの病院に派遣されるという派手な展開。結局、朝鮮で知り合ってチベットまでおしかけてきた李冰冰(リー・ビンビン)と結婚する。二・二八事件白色テロを逃れて大陸に渡った台湾人はけっこういるが、反右派闘争や文化大革命で迫害されたと聞く。しかしもちろんそんなことは微塵も描かれない。雪崩のために早くに亡くなってしまうものの、「チベットで結婚したふたりは幸せに暮らしました」という展開。チベットの医療に貢献した台湾人、というわけである。なんか臭いますね。陳坤と徐若瑄を隔てたものは何だったのか、といったことについても全く描かれない。誰もが知っている既知のもの、ただそこにある壁、という感じで。

大陸のアイドル、陳坤は初めて見た(と思っていたら、『小さな中国のお針子[C2002-15]とか『恋愛中のパオペイ』[C2004-06]で観ていたらしい【2007-11-12追記】)が、唇が藤木くんみたいに紫色なのが気になった。陳坤、徐若瑄、李冰冰という主要キャストはどうでもいいが、陳坤のおかあさんが楊貴媚(ヤン・クイメイ)、徐若瑄のおとうさんが秦漢(チン・ハン)というのがなかなかの豪華キャストだ。結局結ばれない二人はそれぞれ別のパートナーを得るが、陳坤は李冰冰なのに徐若瑄は鼻血男というのはフェアじゃないと思う。

前のエントリーにも書いたように、たまたま連続して観た映画に共通点を発見することがある。『海辺の一日』と『雲水謡』の場合は、ヒロインの無理な制服姿である。『海辺の一日』は、当時30歳くらいの張艾嘉(シルヴィア・チャン)が女子高生に扮していて、常人の三倍はあろうかと思われるボリュームのおかっぱのカツラが激しく不自然だったが、北一女中(たぶん)の制服を着ているのでそれなりにリアリティもある。『雲水謡』は、やはり30歳くらいの徐若瑄が女学生に扮しているが、髪の毛は三つ編みだし、顔も童顔だから張艾嘉より違和感はない。しかし光復直後の台湾で、白いミニスカートのセーラー服に白いハイソックスって、絶対にありえない。

ところでこの映画祭では、上映開始までにスポンサーなどのコマーシャルが繰り返ししつこく流されているが、上映の冒頭にもう一度流すのはやめてもらいたい。おかげで終映が思ったより5分も遅く、ホームライナーに間に合うようにダッシュで帰る羽目になった。