シネマヴェーラ渋谷の特集「中島貞夫 狂犬の倫理」で『犬笛』を観る。
ふつうは観ない動物映画なので迷ったが、せっかく二本立てだし、主演が菅原文太なので観る。犬は前面に出ておらず、菅原文太が娘を捜す話なので意外と見られた。ヤクザでも暴力刑事でもない菅原文太というのははじめて見る気がするが、カタギでシリアスな文太もなかなかサマになっていた。
「犬が前面に出ていないのは、芸をおぼえられない犬だから」と監督が『遊撃の美学』の中で言っていて、走るとか吠えるとか、一頭一芸で5頭使っているらしい。道理で動物映画にありがちな、「きゃー、なにこれー、ちょーかわいいー」というシーンが皆無である。せいぜい、遠くのほうでちょっと愛らしくしているくらい。
『君よ憤怒の河を渉れ』[C1976-16]と原作者が同じらしく、途中で菅原文太が濡れ衣を着せられて、刑事の北大路欣也が助けるとか、どこかでみたような展開がみられる。精神医学ネタみたいなのが使われていて、それがストーリーに信憑性を与えるどころか、逆にトンデモ色を強めている点も同じ。
菅原文太の娘は犬笛が聴こえる特殊な耳をもっているという設定で、犬を連れた菅原文太と、誘拐された娘とが犬笛をもっているのだが、犬笛は映画の中ではあまり存在感がない。犬の声が聴こえることにして、犬が北大路欣也の声でしゃべるようにしてはどうか、などと妄想を巡らす。
三船プロの作品なので、最後のほうのおいしいところで三船敏郎が登場するが、年を取って動かないミフネはなんだか愚鈍な印象。この船長の役はミフネよりタンバだよね。