実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『やくざ戦争 日本の首領』(中島貞夫)[C1977-26]

シネマヴェーラ渋谷の特集「中島貞夫 狂犬の倫理」で、『やくざ戦争 日本の首領』を観る。『ゴッドファーザー[C1972-04]に多分に影響されたと思われる、ヤクザの人間ドラマ。鶴田浩二佐分利信主演なので、『お茶漬の味』[C1952-06]と二本立てで観たい。

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佐分利信が中島組組長で、鶴田浩二が若衆頭。アクションよりもドラマで描くということらしいが、前半はこのふたりの出番も少なくて群像劇っぽい。中島組の組織や組長の家族などを紹介しつつ、中島組の東京進出に向けての戦いが描かれるのだが、実際に動いている人間や起きているできごとが中心になっているので、それらを仕切っているのが鶴田浩二で、そのバックに佐分利信がいるという構図が見えにくい。火野正平のエピソードとか不要な人物やエピソードを削り、もう少しすっきり描けたのではないかと思う。

佐分利信は、最初の登場から、アラカンのようないい親分でも金子信雄のようなひどい親分でもない、カリスマ性と怖さを併せ持つ傑出したリーダーを、さすがの貫禄で演じている。見た目もさることながら、やはりあのしゃべり方が魅力。いっぽうの鶴田浩二は、1971年以来見ていないこともあり、年を取って容色の衰えが目立つ。洋服も似合わないし、髪の毛もいささか長過ぎる。そして彼の役は、持病があって体調が悪いのに東京進出の指揮をとらねばならず、幹部たちをまとめる苦労も尋常ではない、というもの。したがって、常にしんどさを漂わせ、陰気な顔で座っている。彼の演じるべき役柄をきっちり演じているのだが、上述したように、起きているできごとと鶴田浩二との関係が見えにくいため、時としてなんだかぱっとしない印象を与えてしまうのも否めない。

しかし後半に入ると、佐分利信鶴田浩二のドラマが中心になり、佐分利信はもちろん、鶴田浩二も冴えを見せる。ふたりの意見は次第に対立するようになり、それでも鶴田浩二佐分利信に従わざるを得ないが、やがて彼は佐分利の意向に逆らって組を解散する決意をし、衝撃のクライマックスへと進む。前半から一転、感情を表に出して苦悩する鶴田浩二と、背負っているものの重さをかすかににじませるだけで、揺るがない佐分利信。ふたりの見ごたえのあるドラマに魅了される。しかし、鶴田浩二が死んだあとのラストシーンで、佐分利信が全部もっていってしまう。ただただ圧倒され、「わー、すごい、佐分利信、すごい…」と口を開けて観ているうちに終わった。やっぱり佐分利信はすごい。

そのほかの主なキャストは、幹部に千葉真一成田三樹夫佐分利信の秘書に松方弘樹。今回の千葉ちゃんは、昨日のコドモな千葉ちゃんとはうってかわって怖くなっていた。アタマ悪そうなのは変わっておらず、全部ひらがなの遺書が最高。成田三樹夫はコミカルな演技をしていてもクール。立ったまま羊羹食うな。さらにクールなのが松方弘樹。彼も『仁義なき戦い[C1973-13]あたりを境に、お坊ちゃんっぽい甘めの雰囲気から凄みのある雰囲気へと変わったけれど、今回はかなり抑えた演技をしており、凄みは影をひそめてソフトな雰囲気で、時おり昔のような甘さも漂わせる。渡瀬恒彦とは違い、若い女の子におっぱい見せられてもきっぱり断れる。クール(でもふだんのイメージから、ここはかなりハラハラした)。鶴田浩二の舎弟なのに、佐分利信の意向をくんで鶴田浩二の解散声明を破り捨てるところもいい。あと、梅宮辰夫が四課長の役だけど、梅宮って警察官になると台詞が棒読みになりませんか。

お話はフィクションだけどモデルは明白なためか、荒唐無稽な印象やコミカルな印象を受けるところもあり、そのあたりは好みではないが、当時としてはやむを得ないところもあったと思われる。ほかに気になったのは、佐分利信の二人の娘が養女という設定で、フィクション色を濃くしたかったのかもしれないし、組長夫妻の人徳を表すためでもあるかもしれないが、ちょっとやりすぎだと思った。娘の結婚式で親と名乗れないのも、事情聴取で娘を交換条件に出されても動じないのも、しょせん養女だからという穿った見方もできなくはないわけで、別に実の子供でよかったと思う。

また、全体的には豪華キャストなのに、組長夫人が東恵美子という知らない人で、もっと大物女優をもってきたほうがいいと思った(監督もそう思ったからこのあと岡田茉莉子とか呼ぶんだと思うけど)。しかし市原悦子とか、中島監督はきれいきれいした女優さんよりおばさん系が好きですね。