実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『新世界の夜明け(新世界)』(林家威)[C2011-06]

オーディトリウム渋谷の特集「KINO TRIBE 2011 独立映画宣言!」(公式)で、林家威(リム・カーワイ)監督の『新世界の夜明け』を観る。

たぶん家も裕福なうえに青年実業家みたいな彼氏がいる北京の女の子が、大阪の新世界のボロいゲストハウスにやってきて、中国人の借金をめぐるゴタゴタに巻き込まれるお話。

出てくる北京がことごとくきらびやかな大都会で、いっぽうの大阪は古くてごみごみした街だったり、日本人や、日本で働きながら勉強している中国人は貧乏で、北京から来た女の子がお金持ちだったり…というのには、別に目新しさは感じなかった。会社に来る中国人の契約社員や研修生をみても、銀座などを歩いていても、けっこう日頃感じることだったりするわけだから。

この映画とは直接関係ないけれど、日本のゲストハウスに中国人旅行者が泊まらないのは、中国人はまだ誰でも日本に自由旅行できるわけではないからだと思う。貧乏旅行者には二つのタイプがあって、ひとつは本当に貧乏だから貧乏旅行をする人(といっても食うに困るようなレベルではない)。こういう人は、今はまだ日本に来られない。もうひとつは、ふだんは何不自由ない生活をしているから、娯楽として貧乏旅行を楽しむ人。日本では、90年代のアジアブームの頃にこういう人たちが増えたように思うけれど、中国ではたぶんまだこの層は出てきていないのではないかと思う。今は、お金があるならお金を使ってリッチな旅行をしたい、と思う段階。この映画のヒロインは、今回の経験を通して今後そのような貧乏旅行にめざめるのかもしれない。

ギャングの借金取り立てから始まる無国籍アクション映画風の展開は、なかなかおもしろかった。ちょっと『台北の朝、僕は恋をする』[C2010-51]を思わせるが、あちらはその非現実的なところにノレなかったけれど、こちらはぜんぜん気にならなかった。一夜明けて恋が芽生えるところも似ているけれど、相手がヒロインではなくてその友だちだというずらし具合もいい。素人を含め、いろいろ味のある人たちが出ているが、ヒロインを演じる史可(シー・カー/シー・コー*)にはいまひとつ魅力を感じなかった。

中国人バーをやりながら子供を育てているエリを、天安門事件で挫折して日本にやってきたという設定にしているところに、『それから After All These Years』[C2009-47]と同様、監督が大陸の人ではないにおいを感じる。

上映後に、林家威監督の挨拶とQ&Aがあった。