実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『山口組三代目』(山下耕作)[C1973-32]

新文芸坐の特集「最後のドン 追悼・岡田茂 東映黄金時代を作った男(チラシ)で、山下耕作監督の『山口組三代目』を観る。

以前『 山口組三代目 総集編』[C1973-15]というのを観ており、再見するつもりで来たのだが、どうも様子が違う。あまり憶えてはいないが、戦後の神戸港の話がメインだと思ったのに、戦前の話だけで終わってしまう。ネットにもほとんど情報がなくてわからないが、以前観たのは『山口組三代目』と『三代目襲名』[C1974-25]との総集編だったのではないかと思われる。

総集編ではない『山口組三代目』は、山口組三代目・田岡一雄が山口組に出入りするようになってから頭角を現すまでを描いていて、まだ三代目にはならない。本人存命中に実名バリバリで描いた異色の実録仁侠映画だが、総集編は『仁義なき戦い 完結篇[C1974-20]の併映で、『仁義なき戦い』シリーズを続けて観てすっかり仁義モードになっているところだったので、美化された生ぬるい世界に感じられて、あまり印象に残らなかった。

しかし今回あらためて観ると、なかなかおもしろかったし、話している人物の配置や構図がやたらとかっこよかった(『冬の華』のあとだったからか?)。高倉健演じる田岡は、姿勢が前向きで度胸もあるが、かなり暴力的なので美化されているという印象はあまりない。むしろ、丹波哲郎演じる二代目・山口登がかなり立派だ。この映画だけ観ると、山口組が大きくなったのは二代目が立派だったからにみえる。ふつうの仁侠映画では、戦前に洋服を着ているヤクザは悪いヤクザと決まっているが、そこはタンバなので、洋服が似合ってめちゃくちゃかっこいい。

伝記映画なのでいろいろなエピソードが描かれているが、次第に大長八郎(菅原文太)との関係に焦点がしぼられていく。仲良くなり、一度は八郎につきあって指まで詰めようとしたのに、最後は斬る羽目になる。懲役8年の判決に「そんなに短くていいのか?」と問い返すラスト。続篇を前提とした終わり方なのかもしれないが、このラストの突き放し方がなかなかいい。

ただ、問題がひとつ。それは健さんの歳である。健さんはこのとき42歳くらい。描かれているのは16歳から24歳まで。元気に若々しく演じてはいるけれども、40過ぎの顔をアップで見せられて、筆下ろしとかいわれても…。これも続篇を前提としたキャスティングだろうとは思うが、かなり厳しいものがある。

ところで、三代目の役をよくやっている俳優といえばタンバだが、タンバがやるときは、ワンシーンだけ出てきて鶴の一声を聞かせたり慈悲深い言葉をかけたり、そういうのばっかりだ。三代目を主役にじっくり描くとなると、健さんだったり佐分利信だったり三船敏郎だったり。おかしいではないか。たまにはタンバにもやらせろよ。