実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『モンガに散る(艋舺)』(鈕承澤)[C2010-07]

東京国際映画祭4本めは、六本木ヒルズで鈕承澤(ニウ・チェンザー)監督の『モンガに散る』(TIFF紹介ページ)。アジアの風・【台湾電影ルネッサンス2010〜美麗新世代】のオープニング。今年12月に公開予定(公式)。

1986年の台北・艋舺(萬華)を舞台に、5人のチンピラ高校生を描いたこの映画には、次の三つの要素がある。

  1. 5人の友情と愛情を描いた青春映画。そのなかで、新しく極道に足を踏み入れた蚊子(趙又廷/マーク・チャオ)が成長し、大人になる物語。
  2. 台北の古い本省人の街・艋舺を舞台にしたヤクザ映画。戒厳令解除直前、時代が大きく変わろうとするとき、小さな勢力が拮抗する古くさいヤクザ社会に、外省人系の近代的なヤクザが入り込み、黒社会にも大きな変動の波が訪れるのを予感させる物語。
  3. 父と子の映画。親の因果が子に報い的に父の代からの因縁を背負わされていく和尚(阮經天/イーサン・ルアン)と、親分のGeta(馬如龍/マー・ルーロン)に会ったこともない父の面影を重ねていく蚊子の物語。

これらが絡まりあいながら物語が展開していくわけで、題材は興味深いし、実際かなりおもしろかったのだが、この素材ならもっとすごい映画が作れるだろうと思われ、ちょっと残念な映画になってしまっている。残念な点を挙げると次のとおり。

  • いろいろと詰め込みすぎ。141分もあるのに、登場人物やエピソードの掘り下げが足りない。蚊子と小凝(柯佳嬿/クー・ジャーヤン)とのエピソードや、蚊子の実父の話などいらないと思う。
  • 和尚の父(侯傑)が、カタギになってGeta親分と仲良くつきあっている理由がよくわからないのに、和尚が自分の行動に父親の敵討ち的な意味を重ねていくのは単純すぎる。また、和尚の場合は、志龍(鳳小岳/リディアン・ヴォーン)の犠牲になることにしか彼の愛情のもって行き場がないので、父親の場合とは違うと思うのだが(まさかおとうさんもGeta親分に…ってことはないよね)、そのへんがうやむやに重ねられていて不満が残る。
  • (渡世上の)兄弟なのに殺し合う、みたいなセンチメンタルなところに主眼が置かれているが、大人の思惑のなかで少年たちが潰されていくという構図がもう少し出ていたほうがよかったと思う。
  • コミカルなシーンとか、ラストの桜のCGとかいらない。もっと余分な装飾を省いて、クールに生々しくやってほしい。
  • 映像に魅力がない。大好きな萬華が舞台であり、大がかりにロケされているのに、萬華の熱気、濃い空気が感じられず、「このロケ地に行きたい」という気にならない。
  • 少年たちのダサダサなヘアスタイルとか、ファッション的には時代考証されていて80年代を感じるのだが、いまひとつ時代の空気みたいなものが感じられない。もう少し社会的な背景が入っていたほうがいいと思う。

よかったのは、なんといっても和尚役の阮經天。華やかなイケメンというわけではないが、終始まなざしに悲しみや絶望感をたたえていたのが印象的。存在感があり、アップにも耐える。あとは、『風櫃の少年』[C1983-33]で共演していた鈕承澤と林秀玲が、ふたたび、しかも過去にワケありな関係で共演しているのに興奮した。

日本語字幕で気になったのは、灰狼(鈕承澤)などが「大陸者」と呼ばれていたこと。これは外省人ですよね。出てくる人たちは年齢的にいっても台湾生まれの外省人二世だと思われるが、大陸者というと、大陸からのしてきている組織だと誤解する人もいるのではないかと思う。また、蚊子→モスキート、和尚→モンク、志龍→ドラゴンといったニックネームの英語化はやめてほしい。ヘンすぎる。

鈕承澤監督、プロデューサーの李烈(リー・リエ)、阮經天、趙又廷をゲストに、上映前に舞台挨拶、上映後にQ&Aが行われた。さらにそのあとに【台湾電影ルネッサンス2010〜美麗新世代】のオープニング・セレモニーや記者会見が行われたようだが、これはパス。オープニング・セレモニーの動画はこちら(LINK)。阮經天のインタビューはこちら(LINK)。