実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『男たちの挽歌 - A BETTER TOMORROW(무적자)』(송해성)[C2010-48]

同じくT・ジョイ出雲で、宋海星(ソン・ヘソン)監督の『男たちの挽歌 - A BETTER TOMORROW』(公式)を観る。吳宇森(ジョン・ウー)監督『男たちの挽歌[C1986-53]の韓国版リメイク。

わたしはいちおう香港映画ファンのはしくれではあるが、吳宇森には特に思い入れはない。オリジナルの『男たちの挽歌』にも、特別思い入れはない。だって、あまりにも洗練されてなさすぎると思うし、よほど辛抱強くなければ朱寶意(エミリー・チュウ)のドタバタテストシーンで「ダメだこりゃ」と思いませんか? 吳宇森作品だったら、『ハードボイルド 新・男たちの挽歌[C1992-54]や『狼 男たちの挽歌 最終章』[C1989-32]のほうが好きだ。そんなわけで、『男たちの挽歌』が韓国でリメイクされたことに、これといってイヤな感情をいだいたりもせず、単純に楽しみにして観にきた。

時代や場所が異なるので、細かい想定はいろいろ異なっているものの、内容はオリジナルとほとんど同じ。シーンによってはあまりにそっくりで笑ってしまうほど。唯一大きく異なるのは、オリジナルで周潤發(チョウ・ユンファ)、狄龍(ティ・ロン)、張國榮(レスリー・チャン)が演じた人物が脱北者という設定になっていること。オリジナルは60年代の任侠映画がモデルだと思うので、登場人物に深刻なバックグラウンドはない。しかし、70年代になると在日のヤクザが描かれたりするように、いま映画化するにはこういったバックグラウンドが必要なのだろう。もちろん在日と脱北者を同列には論じられないが、日本映画で在日がタブーなのに、北から来た人はおもしろい韓国映画に不可欠なのはなぜかとか、いや、在日も現在ではタブーじゃないのかなとか、韓国映画において北から来た人の表象はどのように変遷してきたのだろうかとか、かつてはタブーだったこともあるのだろうかとか、いろいろつらつら考える。そういうことを研究している人は当然いるだろうから、日本でもそういう本が出るといいなと思う。

メインの人物を脱北者に設定することによって、兄弟の関係や家庭環境が大きく変わっており、オリジナルではかなり無理が感じられた兄弟の確執がより自然なものになっている。また、兄を、母親や弟を見捨てて脱北せざるを得なかったという、一種の裏切り者に設定することにより、裏切りというテーマがより鮮明になっている。後ろ盾のない北の人間と社長の甥である南の人間という出自の違いを設定することで、かなり極端な組織の中での浮き沈みも、より自然に感じられる。ただ、あまりにも脱北者ネタを出し過ぎていると思う。終盤は、友情、兄弟愛、裏切りといったものだけでおしてもよかったと思うし、なによりあのラストはないだろう。ラスト自体もよくないし、きっちり結末をつけてしまうところもイヤ。そのあとの回想シーンとエンディングのヘンな日本語の歌、三つまとめてカット、再提出。これから観る人には、弟が撃ったところで席を立つことをおすすめします。

演じる俳優は、いずれもオリジナルとはぜんぜん似ていないが、それはそれでいい。ただひとつ言いたいことがある。すまんことどんねんけど、『挽歌』の登場人物、髪のあるほうとないほう、ふたつに分けておましてな。なのにどこで間違ったか、みんな髪がありすぎる。

それはともかく、まず周潤發の役は宋承憲(ソン・スンホン)。香港映画ファンに殴られそうだが、わたしは周潤發の魅力がよくわからない。顔はまるいし、小林旭に似ているという人もいるが、ぜんぜんそうは思えないし、身振りはオーバーだし、どこがいいのかわからない。だからこの役にも特別な思い入れはない。そんなわたしは、スンホンさん(ファンであるJ媽からすり込まれているのでそう呼ばせてもらいます)、すごくよかった(『男女6人恋物語』の人とは思えん)。周潤發が演じたマークは、人格は長門裕之なのに腕は健さんという、かなり特異なキャラクターだった。それがいいという人もあろうが、スンホンさん演じるヨンチュンはもっとクールで、周潤發ほどアホっぽくない。特に前半は、かなり魅せてくれました。J媽もぜったい観るべし(もう観たかな)。

次に狄龍演じたお兄さんは朱鎮模(チュ・ジンモ)。イケメンすぎ、若く見えすぎ、アニキっぽくなさすぎ(ヘンな意味でなく)、ヤクザに見えなさすぎ、貫禄なさすぎ。ひとつひとつのシーンを観ているとけっして悪くないと思うのだが、全体としては小さくまとまりすぎていて印象がうすい。

それから張國榮演じた弟はキム・ガンウ。けっこう評判が悪いようだけれど、それは張國榮がやった役だからというのもあるのだろう。設定がいちばん変わっている役だし、オリジナルの張國榮も相当ヘンだったし、まあいいんじゃないのと思ったけれど、もうちょっと繊細で、かわいらしいところもある人がよかったかもしれない。要するに、この兄弟はふたりとも翳のある役だけど、お兄さんは甘すぎ、弟は甘くなさすぎ。

最後に、李子雄(レイ・チーホン)が演じた裏切り者役は安住紳一郎、じゃなくてチョ・ハンソン。ふだんのイメージとぜんぜん違う役なのに、安住アナ、よく引き受けたな、などと思いながら観ていた(別人だって、わかってますって)。苦手な顔だし、芝居しすぎだし、いい評価はできないものの、終盤に向けてどんどんパワーアップするし、誰よりもインパクトがあった。

ちなみに、スンホンさんとチュ・ジンモのイチャイチャシーンは、ちゃんと二回くらいありました。主題歌に“當年情”が使われていなくて残念だったが、オリジナルと同じ音楽がちょっと使われていたような気がしたけれど気のせいだろうか。