実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『悪人』(李相日)[C2010-03]

フォセッタから横浜に直行し、109シネマズMM横浜で李相日監督の『悪人』(公式)を観る。J先生は深津絵里ファンなので、彼女の出る映画はほぼ毎回、いそいそと観に行く。わたしもふかっちゃんはけっこう好きだし、映画も重視している姿勢には好感をもっている。しかしながら、出る映画の選択にかなり疑問があるため、つきあいで観に行くのは『(ハル)』[C1995-36]に次いで二度目、たぶん。

原作ものだが、原作はぜんぜん知らないので、単純に映画として観た感想を書く。まず、映画的な魅力がほとんど感じられなかった。やたらとアップが多い。いろんなことが全部台詞で説明されていて、登場人物の気持ちはわかるけれど、ナマナマしさや切実さが感じられない。ロケ地へ行ってみたい気にもならない。

これは、殺人犯である祐一(妻夫木聡)と光代(深津絵里)の逃避行を描きつつ、それと絡めて、誰がほんとうの悪人なのかを問うていくという構想の映画だと思うが、どうもロマンスパートと悪人パートが別々に見えて、両者がうまく絡まっていないように感じられる。祐一、光代、被害者の父(柄本明)、祐一の祖母(樹木希林)の行動が並行して描かれているのに、そこに何度も回想シーンが入ってきたりする妙な構成のせいもあるかもしれない。烏賊の眼シーンには驚愕した。

ロマンスパートでは、とりあえず祐一と光代が、美男美女ではなく、地方でくすぶっている、あまりぱっとしない男女に見えた点はすごいと思う。しかし、それなら別にこのキャスティングじゃなくても…と思ってしまい、最後まであまりしっくりこなかった。ふかっちゃんがモントリオールで女優賞を獲ったのはおめでたいが、そんなによかったかな。演技が上手いとか下手とかはよくわからないし(入江若葉くらい下手だとわかるが)、あまり興味もない(入江若葉ほど下手なのはイヤだが)が、女優としてそんなに輝きを放っているようには感じなかった。ベッドシーンも期待したほどではなかったし。

映画中では年齢への言及はないものの、実年齢からして光代が年上だと思われる。しかし、彼女は何の波乱もなく歳を重ねてきた人なので、心身ともに若くて歳の差を感じないだろうと予想していたのだが、口を開いたらかなりの「おばはんキャラ」だったので、思いきりひいてしまった。女が年上のカップルにはいくつかのパターンがあるが、歳の差を感じない対等な感じでもなく、憧れのおねえさまパターンでもなく、じゃあ何かと思ったら母親パターンだったのでがっかり。ふたりが逃避行を始めてだんだん母親代わりみたいになってきたと思ったら、案の定、実の母親が出てきたり、捨てられた思い出が語られたり。単純に好みの問題だが、わたしはとにかくマザコンものが嫌いである。

悪人パートのほうは、いかにもメッセージを伝えるために人物が配置されているという感じがした。特に悪人になるほど魅力がない。だいたい、世の中に善人と悪人がいるわけではなく、誰にでも善の部分と悪の部分があって、悪の部分が悪い具合にぶつかってしまうと、犯罪の加害者になってしまったり被害者になってしまったりするのではないだろうか。観ていて何宇恆(ホー・ユーハン)の『心の魔』[C2009-12]を思い出したけれど、監督はおそらく観ていないでしょうね。でも観たほうがいいと思う、というか、観ていたらよかったのに。