シネマヴェーラ渋谷の特集「鈴木清順 再起動!」(公式)で『すべてが狂ってる』を観る。
- 出版社/メーカー: 日活
- 発売日: 2005/05/21
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戦争未亡人の母親・奈良岡朋子が愛人であることが許せないマザコン高校生の川地民夫が、不良になって破滅へと突っ走る「無軌道な青春」映画。二枚目すぎず、苦い若さといった雰囲気をもち、少しだけ狂気の気配をはらんだ当時の川地民夫には、このようなナイーブな少年役が似合っており、なかなかいい味を出している。なるほど、冒頭、家を飛び出した川地民夫が口だか鼻だかをしきりにさわりながら歩くところは、「ああ、ベルモンド」と思ったりもする。しかしながら、最後には「あんまり狂ってなかったよ」とつぶやいてしまう。
「無軌道な青春」というのは、原因があまり具体的であってはいけない気がする。「時代の気分」とか、「社会の閉塞感」とか、そういったものを曖昧に漂わせていなくちゃいけない気がする。間違っても「マザコン」が原因であってはならない。ひと昔前の映画を観て価値観の違いを感じることは多々あるけれど、その最たるものは「マザコン」である。マキノをはじめとして、昔の映画では、マザコンというのは絶対的にプラスの価値観である。しかし、少なくとも現代の女子にとって、マザコンは絶対的にマイナスの価値観であり、妙齢の男子にあってはならないものだ。
また、母親の奈良岡朋子は、「おかあさんだって女よ」というには老けすぎている。そのため、愛人であることが逆に生々しく感じられすぎる。その反面、彼女も愛人の芦田伸介もたいへん真面目で、丁寧語で真剣に子供のことを相談したり、芦田伸介が川地民夫を更生させようと奔走したりする様子は、全体の雰囲気のなかで浮いている。
ジャズが流れるなかで若者たちの無軌道ぶりを描く、ちょっと狂った感じは、たしかに当時としては新しい雰囲気を感じさせたと思う。しかし要するに、所帯じみたところが描かれすぎていて、なんだか妙に貧乏くさいのである。