実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(錦織良成)[C2010-02]

春との旅』でラーメンを食べていたので昼ごはんはラーメンが食べたかったけれど、お財布と体型のためにはなまるうどんにしておく。食事のあとは、錦織良成監督の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(公式)。

この映画を観たのは、この映画自体が観たかったからではない。わたしが中学高校の6年間通学に使っていた一畑電車が出てくるという理由からである。ちょうど帰省しているときに封切られるのも何かの縁かもしれないし、映画の舞台になっている土地で観るのも風情があるというものだろう。

そんなわけで、映画自体にはそれほど期待していなかったが、正直もうちょっとマシなのかと思っていた。冒頭、新幹線が走る東京の俯瞰と主人公が働く高層ビルの仰角ショットが激しく不安を煽ったとおり、多忙でぎすぎすして夢や理想を忘れた都会の生活と、ゆったりしていて人情があって夢を追い求める田舎の生活との単純すぎる二項対立でできあがっている。田舎のいい面と表裏一体であるはずの経済格差、不便な生活、わずらわしい近所づきあいといったものはまるっきり無視。結局のところ、主人公の中井貴一が夢を実現できるのは彼に経済的な余裕があるからである。49歳で運転士になるというと珍しく聞こえるが、要するにお金のある人が引退して農業をやったりするのとおんなじだ。

中井貴一の転職のきっかけは、田舎で一人暮らしをしている母親が入院したことであり、現在のわたしの境遇と似ているので、何かヒントになることでもないかという期待もあったが、こちらもまたたいへんなご都合主義であった。母親の奈良岡朋子はわがままひとつ言わないたいへんよくできた人で、病気を愚痴ったりボケたり暴れたり寝たきりのままいつまでも生き続けたりせず、1年ほど入院してたいして苦しみもせず都合よく死んでくれる(今どき告知しないというのもあり得ないのでは)。しかも病院には、常に付き添って何から何まで面倒をみてくれる天使のような宮崎美子がいる。こんな入院生活だったら、家族もさぞ楽であろう。病院の想定は出雲市総合医療センターだと思われるが、ここには実際には宮崎美子のような人はおらず、病院は否応なしに家族を呼びつけ、夜中に付き添えだのなんだのと要求する。

中井貴一と同期で運転士になる青年を、百恵ちゃんの息子の三浦貴大が演じているが、心を閉ざしたやる気のない若者が主人公とふれあうことによって成長するという展開も、うんざりするほど紋切り型。中井貴一にはいちおう試練も用意されているが、そこを乗り切る「感動シーン」には思いっきり寒気がした。

オレンジ色の昔の一畑電車の車両(デハニ50系というらしい)は客観的に見るとかわいらしいが、これが田園地帯を走るシーンは思ったほど美しくなかった。子供のころ、同じようなデザインの黄色い電車も走っていたが(黄色が各駅でオレンジ色が急行だった)、あれはもうないのかな。中井貴一の実家のロケ地はたぶん電車から見えると思うが、今わたしが病院通いをしている範囲の外なので、当面確認はできそうにない。わたしの実家の最寄り駅である雲州平田駅は車庫などがあるところなのでたくさん出てきた。

出雲弁は『ゲゲゲの女房』より本格的。なかでも佐野史郎の本物の出雲弁はさすがである。聞いていて楽しいので佐野史郎の出番がいちばんの楽しみだったが、あまり多くなくて残念でした。