実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『東京流れ者』(鈴木清順)[C1966-10]

シネマヴェーラ渋谷の特集「鈴木清順 再起動!」(公式)で『東京流れ者』を観る。21年ぶり二度め。

東京流れ者 [DVD]

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鈴木清順の最高傑作で、ほとんど完璧な映画。足を洗ったヤクザの渡哲也が、東京から庄内、佐世保と流れ流れてふたたび東京へ戻ってくるというロードムービーであると同時に、主要な登場人物にそれぞれテーマソングが与えられ、時にそれらを口ずさむミュージカルでもある。

ひたすら義理に生きる男・不死鳥の哲(渡哲也):テーマソング=『東京流れ者』。「流れ者に女はいらない」という哲を追い続けるかわいい女・千春(松原智恵子):テーマソング=『ブルーナイト・イン・アカサカ』。親分や組織は信用できないと悟って一匹狼になった男・流れ星の健(二谷英明):テーマソング=『男のエレジー』。どこまでも哲をつけ狙う宿命のライバル・マムシの辰(川地民夫)。そして、哲をかわいがっていたのに最後に裏切る親分・倉田(北竜二)。こういった、紋切り型ではあるが魅力的な人物を登場させ、哲が義理に生きて裏切られるという、ありがちではあるがそれ自体魅力的な物語が語られる。しかしながら、そのありがちで魅力的な物語は、紋切り型からはみ出すキャラクター造型、ミュージカル仕立て、リアリティを無視した美術といったものによって、絶妙に外され、ずらされている。

哲には、真面目で腕のたつキャラクターを表すモノローグと、かっこよすぎる決めゼリフの数々と、かっこいいガンアクションが用意されている。それにもかかわらず、彼を渋いかっこよさからずらしているのは、微妙に短いパンツの丈とガニマタ歩きだ。流れ星の健は、哲を助け導く年長者であり、賢く渋い役どころであるはずだが、二谷英明というあまり渋くない俳優に緑色のヘンなブルゾンを着せ、「おとこーじゃないか♪(ドンドンドン)」という渋さの片鱗もない歌をあてがっている。いっぽう、宿敵のマムシの辰は、(アキラの宿敵のジョーがコミカルなのとは対照的に)コミカルなところはひとつもなく、歌も歌わず、終始クールでかっこいい。

千春にはこういったはみ出した部分はほとんどなく、逆に、庄内まで哲を追いかけて行ってすれ違うところで雪の中で転んだりして、思いっきりお約束どおりなのがいい。また倉田は、北竜二が『秋日和』や『秋刀魚の味』で演じたキャラクターをふまえたような、ちょいとコミカルなところがあり、北竜二のうまい使い方だと思う。紋切り型ではない悪役の郷鍈治、江角英明もよい。

ミュージカル仕立てという点に関しては、歌うシーンはそんなに多くはないが、本人の登場に先行して歌や口笛が聞こえるところがたまらなく好き。また、テーマソングのインストゥルメンタル版が映画音楽としてうまく使われている。ただ唯一の問題点として、歌手である千春の歌を吹き替えている鹿乃侑子の声が、松原智恵子のイメージにぜんぜん合っていない。テーマソングの『ブルーナイト・イン・アカサカ』はまだマシとしても、はじめて歌うのが『東京流れ者』で、その出だしがぜったいあり得ないドスのきいた声なのがひどい。「流れ者」の「れ」が巻き舌なのもあり得ないと思う。

美術や風景に関してはあちこちで語り尽くされていると思うのであまり書かないが、アルルの入り口の細長い通路とか、雪の中に細い木が並んで立っているところとか、庄内のホテルの部屋のヨーロッパ風の感じとか、倉田の家から見える大きな枯れ木とニセ東京タワー(TBS旧タワー)のショットとかが好き。

ところで、腕木式信号機の信号が青になり、列車が近づいてくる線路の上で哲と辰が対決するシーンは、『恋恋風塵』を思い出させずにはおかない。『恋恋風塵』は『東京流れ者』へのオマージュなのか?