実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『テン・ウィンターズ(Dieci Inverni)』(Valerio Mieli)[C2009-10]

東京国際映画祭第二日は、夕方の一本のみ。午後遅めに出京して六本木ヒルズへ行き、晩ごはんにラーメンを食べてからコンペティション部門の『テン・ウィンターズ』を観る。監督はヴァレリオ・ミエーリ。

ヴェネチアとモスクワ(なぜか映画祭公式サイトにはレニングラードと書いてある)を舞台に、一組の男女の10年間を冬のシーンだけで描いたもの。先日『秋津温泉』を観たときに(id:xiaogang:20090817#p2)、「長い年月にわたる一組のカップルの物語に共通するのは、どちらかが死んで映画が終わること」と書いた。しかし、あとでそうはならない映画をひとつ思い出した。『ラヴソング(甜蜜蜜)』[C1996-20]である。この映画はある意味で『ラヴソング』と似ている。女性のほうが大人びてしっかりしていて、でも意外に脆いところもある。男性のほうは子供っぽくておっとりしていて、でもマイペースで着実に自分の人生を築いている。ハッピーエンドなところだけでなく、そんなところも共通すると思う。

異なるのは、『ラヴソング』には、ふたりをつなぎ、かつ10年の歳月を表すものとして訒麗君(テレサ・テン)が使われていたが、『テン・ウィンターズ』にはそういうものが見当たらないこと。柿の木の使い方をもう少し工夫すればよかったかもしれない。冬だけを描くというのはユニークだが、偶然の再会にかなり頼っていて、特に冬にだけ会う理由はない。何か、特定の時期にふたりが会う理由を設定して、それを毎年毎年描く、というようにしたほうがよかったと思う。冬というだけで、状況は毎年異なるので、一年経ってまた同じ季節が巡ってきたという感覚がない。

また、ストーリーにそのときどきの時代や社会を表すものがほとんど盛り込まれていないこともあり、時の流れや10年という時の重さが伝わりにくい。ヴェネチアやモスクワが、観光名所とは無縁に生活感をもって描かれているのはいいが、ヴェネチアやモスクワならではというところもあまり感じられない。

もうひとつ、この映画の問題点は、ヒロインのイザベッラ・ラゴネーゼ(Isabella Ragonese)にぜんぜん魅力が感じられないことだ。全体的にはさわやかな印象を残す映画だが、ラストがあれでいいのかというのも気にかかるところである。

時間が遅いので、Q&Aはパスして帰宅。