実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『タレンタイム(Talentime)』(Yasmin Ahmad)[C2009-09]

今日から東京国際映画祭。今日の観賞予定は一本だけで、アジアの風のオープニング、『タレンタイム』。7月に急逝したヤスミン・アフマド(今年から、カタカナ表記が「アハマド」→「アフマド」に)の最後の長篇である。彼女が死を予測していたとは思えないが、これまでの集大成的な映画であり、監督のメッセージが前面に出た、若者に未来を託すような物語であることからも、遺作と呼ぶにふさわしい作品になっている。

学内のタレントコンテスト、「タレンタイム」を舞台に、恋を知り、死に直面しながら、民族や宗教の違いを乗り越えていこうとする高校生たちの物語。人間や人生に対する肯定的な見方はヤスミン・アフマドの映画に共通するものだが、悲観的な側面も描いていた『グブラ(Gubra)』[C2005-49]や『ムアラフ - 改心(Muallaf)』[C2007-39]に比べて楽観的で、人生を肯定する姿勢が強く感じられる。ちょっとわかりやすすぎる気がしないでもないけれども。

ヒロインはムルーであってオーキッドではないが、ムルーの一家はオーキッド一家を彷彿させる。ヒロインが、偏見をもたない両親の愛情に恵まれて育った幸福な女の子であり、そのまわりの人たちが、片親だったり家庭の問題を抱えていたりする、というのはオーキッド四部作と同じ。ただし本作は、ムルーよりもむしろ彼女を取り巻く男の子たちが中心、というかムルーを含めた複数の少年少女を主人公にした物語である。

これまでの作品に出ていた俳優がたくさん出ていて楽しいが、「誰かに似てる」と思ってずっと気になっていたマレー人少年、ハフィズは、『ムクシン(Mukhsin)』[C2006-18]のムクシン(Mohammad Syafie bin Naswip)だった。彼も、ムルーと恋におちるインド系(タミル人)少年、マヘシ(Mahesh Jugal Kishor)もよかったが、ムルーがいまひとつ。辺見マリみたいなちょいと色っぽい雰囲気で、手をつなぐのもはじめて、みたいな初恋物語にはふさわしくないように思える。想定はマレー系だが、演じているPamela Chong Ven Teenは華人と白人のミックスらしい。しかも彼女は26歳で、またまたなんちゃって女子高生だった。年齢的にいっても、『ムアラフ - 改心』のSharifah Aleyshaがよかったのではないかと思う。『ムクシン』のSharifah Aryanaだと、今回はハフィズではなくマヘシを選ぶというのが楽しいが、彼女はまだちょっと幼すぎるのかな(姉妹の年齢がよくわからない…)。

今回はインド系が中心だが、家豪(Howard Hon Kahoe)という華人青年も登場している。彼もまた父親との確執を抱えているようだったが、出番が少なく、背景などが十分わからなかったのが残念。マレー語が主体の学校でも、華人の先生と二人で話すときは広東語だったのが興味深かった。

タレンタイムが開催される講堂の電気がつくショットで始まり、電気が消えるショットで終わるところ、ドビュッシーの『月の光』にのせて、学校の少し古びた佇まいが映しだされるオープニングが好き。今回は、これまでの作品に比べると、笑えるところは少なかったような気がするが、「先生ゲイ疑惑」シーンには楽しませてもらった。舞台/ロケ地は今回もイポーだったが、残念ながら出てくるところはわからなかった。

おまけでCM作品集の上映あり。ヤスミン・アフマドは、もともとCMディレクターとして有名とのことなので、一般企業のウケたCMみたいなのが上映されるのかと思ったら、政府系のCMで、かなりメッセージが前面に出たものだった。

汐留の炒伽哩で昼ごはんを食べて帰宅。