朝から出京。シネスイッチ銀座で、魏�聖(ウェイ・ダーション)監督の『海角七号 - 君想う、国境の南』(公式)を観る。予告篇で、「こんな映画の誕生を待っていた」という侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の言葉が紹介されていたが、ほんとにそんなこと言ったの?
- 出版社/メーカー: 得利
- 発売日: 2008/12/18
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観た結果、危惧したような怪しさはほとんどなかったが、ちょっと前にテレビで見た金の蔵Jr.(270円均一居酒屋)の専務のコメントを思い出した。「飲食業はマーケティングである。時代が求めるものを提供するだけ」。これを聞いて、シェフがほんとうに食べてもらいたいと思うものを作って出すような小さなレストランとはなんとかけ離れていることか、と思った。この映画も、次回作の資金集めのため、最初からヒットを狙って作られたという点で金の蔵Jr.と同じだ。「口コミからヒットにつながる」というと、「ほんとうにいいものがそのよさを認めてもらえた」というストーリーを期待しがちだが、売れるように作ったものが実際に売れたという、単にそれだけの寂しい話にすぎない。
この映画にはいろいろな人が登場し、夢と挫折、想い出やノスタルジー、若者の地元離れや地域の振興、親子の確執や世代間の断絶など様々なテーマが盛り込まれていて、だれもがどこかに自分を投影することができる。さらに、民族音楽とか原住民とか、知的良心みたいなものを刺激する要素も盛り込まれている。そのあたりがヒットの理由だろう。しかしどのテーマも深く掘り下げられてはおらず、絡みかたも不十分。そもそも監督が、それらのテーマをほんとうに描きたいわけではないと思われるのだからしかたがない。
それなりに楽しめるし、次回作以降に期待できる点もあるのだが、どうしようもなくひどいところが二点ある。
ひとつめは、ヒロインの田中千絵。上映前の舞台挨拶ではふつうにかわいい女優さんに見えたが、この映画の中では最悪である。ヘンな顔、ヘンな髪型(これが特にマイナス)、下手な北京語、クサい演技(これもかなりマイナス)。悪いけれど、彼女が出てくるたびに、盛り上がっていた気持ちもスッと醒めてしまう。
ふたつめは、60年前の日本人教師の手紙。映像などから想像するに、この男は小島友子という台湾人女性を日本に連れて行くと約束しておきながら、ひそかに自分だけ引き揚げて行ったようなのだが、その船上で書かれたという手紙は、くどくどしい装飾的な文章で自己弁護をしているだけのものだ。自分を悲劇の主人公とみなして陶酔しているようなクサい文章がとにかくイヤだ。とりあえず、外国映画にありがちななんちゃって日本語ではなく、ちゃんと日本語の文章にはなっているのだが。
この60年前のラブストーリーは、結局たいして物語に絡んでおらず、フレーバーのひとつにすぎない。別に日本の植民地統治を美化しているわけでもない。中国政府も、こんな毒にも薬にもならない映画にいちいち文句をつけていないで、大国らしくドンと構えていたらどうだろうか(いちいちウヨクが騒ぐので迷惑なんです)。
映画の舞台は屏東縣恆春鎮。この映画がヒットして、ロケ地めぐりが流行ったようなので、そこは多少期待していた。しかし、別に画が魅力的な映画ではなかったので、特に恆春に行きたい気持ちにはならなかった。恆春に行くことがあればロケ地めぐりをしてもいいけれど、わざわざそのために行きたいとは思わない。