4週連続同じ電車で渋谷へ。整理券をもらってからセガフレードで昼ごはん。それからユーロスペースで、陳子謙(ロイストン・タン)監督の『881 歌え!パパイヤ』(公式/映画生活/goo映画)を観る。初日プレゼントで、思いがけずカヤジャムをどーんと一人一瓶もらった。嬉しいけれど重い。でも明日の朝食が楽しみだ。
映画は、歌台歌手の木瓜姊妹(パパイヤ・シスターズ)を描いた福建語歌謡ミュージカル。大木瓜に楊雁雁(ヤオ・ヤンヤン)、小木瓜に王欣(ミンディー・オン)。王欣は、大S(徐熙媛/バービー・スー)と章子怡(チャン・ツィイー)を足してちょっと地味にしたような感じ。大Sなのに小木瓜というのはややこしいなあと勝手に混乱する。ちなみに大木瓜のおかあさんは津島恵子。
歌台とか福建語歌謡とかローカルな文化を扱っているのがよくて、かわいい顔にセクシーな衣装なのに思いっきりド演歌というギャップも楽しめる。ライバルとの対決に難病モノ要素を組み込んだ、笑いあり涙ありの楽しめる映画だが、あまりにもベタすぎるのと、時々ギャグがよくわからないのが気になった。ミュージカルというとどうしてもわかりやすさが要請されて似たような構成になってしまうのか、『オペレッタ狸御殿』[C2005-01]でもヴァーチャル美空ひばりに我慢できなかったが、こちらも歌台の女神というのが出てきて道徳的なことを言ったりしていた。
陳子謙といえば、前作の『4:30(フォーサーティ)』[C2005-29]がかなり好き。「シンガポールの蔡明亮」という雰囲気の、余計なもののない静かな映画から、いろいろてんこ盛りのにぎやかな映画への変化、しかもシンガポールで大ヒットというのにはびっくり。それでも、木瓜姊妹の運転手、關音(戚玉武/チー・ユーウー←ちょいといい男)のまわりの雰囲気などをみると、そんなに変わっていないかもと思う。でもおそらくこの映画は、陳子謙の映画だとか前作のこととかは忘れて観たほうが楽しめるだろう。
かなりの部分福建語が使われていて、そのこと自体はたいへんよいのだが、いくつか気になることがあった。ひとつは、リンおばさんを演じた劉玲玲(リウ・リンリン)の福建語。そもそもこの映画はアフレコだと思われ、そこがけっこう気になっていたが、彼女の福建語は吹き替えっぽいというかすごくクリアで、ふつうに話しているようなナチュラルな感じではない。彼女のふだんの話し方を知らないので、もしかしたら単なる言いがかりかもしれないが、同時録音の台湾映画で聞きなれているのとは全然違ってすごく不自然な感じがした。
もうひとつは、その彼女の福建語の日本語字幕が大阪弁だったこと。北京語と福建語を訳し分けるために大阪弁を使うというのならひとつの工夫だと思うが(でも大阪弁より広島弁とか九州弁とか名古屋弁のほうがいいのではないだろうか)、ほかの人も福建語を使っているのに彼女だけ大阪弁というのがすごく引っかかった。人によって分かれるのではなく、木瓜姊妹とか両方使っている人も多いから、それをそのまま訳し分けるとそれはそれでニュアンスが変わってしまう。ここは、福建語はイタリックにするといったあたりまえのやり方のほうがよかったと思う。
歌台は、すごく小規模なものは台湾などで見たことがあると思うが、映画に出てきたような大規模なものは知らなかった。そもそも、人気歌手とかファンとかいった概念に関わりのあるようなものとは思っていなかったが、あれはシンガポール独自のものなのだろうか。台湾でいうと、『求婚事務所』でHebeが演じていたような人たちだと思うのだが。見た目の雰囲気は、この映画のカレンがまさにそういう感じ。シンガポールの場合、市場規模の小ささとか福建語歌謡のローカル性とかとの関連から、他の中華圏と異なる発展をしているのかもしれないと思ったが、実際のところどうなのだろう。
また、歌われている曲はシンガポールオリジナルのものなのだろうか。それとも星馬で共通のものか、あるいは中華圏全体で歌われているものなのか。“望春風”みたいな曲とか、けっこう聴いたことのあるような曲があったが、替え歌などもあるのだろうか。それともどれも福建語歌謡の王道パターンみたいなメロディなので、知っているように感じるだけなのだろうか。
木瓜姊妹のライバル、榴槤姊妹(ドリアン・シスターズ)のドリアンビキニが気に入った。あれ、売っていたら楽しいと思う(着られないけれど)。終わったあとは頭のなかで福建語歌謡が鳴り続けて困った。