実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『サバイバル・ソング(小李子)』(于廣義)[C2008-30]

ミスタードーナツで昼ごはんを食べてから出京。東京フィルメックスが今年第10回を迎えるということで、「東京フィルメックスの軌跡〜未来を切り拓く映画作家たち」という特集上映がシネマート六本木で開催されている。今日はその最終日で、未見の映画を2本ほど観る予定。このような特集はすばらしいが、受賞作が中心ということもあってか、台湾映画がないのが残念。『いわゆる親友(哥兒們)』[C2000-18]や『小雨の歌(小雨之歌)』[C2002-10]を再見したい。

一本めは、于廣義(ユー・グァンイー)監督の『サバイバル・ソング』。去年のフィルメックスで上映されたものだが、やむを得ない事情で観られなかった。こんなに早く観る機会が訪れてうれしい。しかし、たった2回しか上映がないというのに、客席がガラガラなのが気になる。

失業後、山の中で放牧と密漁による自給自足的な生活を送る韓さん夫婦と、そこで働く小李子の生活を描いたドキュメンタリー。登場人物と監督の距離が非常に近いのに、決して感傷的、同情的にならず、ある程度の距離を保って淡々と描かれているところや、電気がないためにろうそくや懐中電灯の光だけの暗いシーンが多いのが印象的。ただ、モノクロのような美しい画面と、躍動感あふれるおもしろさに満ちていた前作、『最後の木こりたち(木幫)』[C2007-18]と比べると、ちょっと物足りない感じがする。

登場人物が少ないためか、前作にはなかったインタビューが多いのが、物足りなさのひとつの要因かとも思う。しかし、主人公が、韓さんから、原題どおり小李子へと移っていくにしたがっておもしろみを増す。小李子は、なんとなく韓三明(ハン・サンミン)を思わせる中年男(実は似ていないが)。ちょっとアタマが弱そうで、韓さんの奥さんのトイレを覗いたり、洗濯物におしっこをかけたりする困り者だが、その小李子の楽しみは歌うこと。これはなによりも、歌って踊る小李子を楽しむ映画である。「ディスコ、ディスコ♪」という歌を熱唱したり、工事現場の宿舎の宴会で延々と踊り狂う小李子。他の中国ドキュメンタリーと同様、理不尽な政治や行政を告発していながら、庶民パワーに圧倒される作品である。