実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ゴルゴ13 九竜の首』(野田幸男)[C1977-25]

渋谷へ移動して、今週もシネマヴェーラ渋谷(公式)の「劇画≒映画」へ。J先生と合流して、野田幸男監督の『ゴルゴ13 九竜の首』を観る。あいかわらずガラガラ。

ゴルゴ13 九竜の首 [DVD]

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千葉真一ゴルゴ13がすごい。わたしはゴルゴ13を知らないので、似ているかどうかは判断する術がないが、ゴルゴ13のかもし出す雰囲気がすごく劇画っぽくてよかった。なぜ劇画っぽいかというと、静止画だからである。ゴルゴ13は、各シーンで最初に登場したとき、ほとんど動かずしゃべらず、無表情な恐い顔で中空を睨んでいる。これがいい。もちろんずっとそうしているわけにもいかないので、やがて動いたりしゃべったりするのだが、そうするとだんだん千葉ちゃんっぽくなってきて魅力がうすれる。半端じゃなく濃い顔の造型やハデハデファッションも、徹底していてよかった。あと、「ゴルゴォォォ〜、ゴルゴォォォ〜♪」という妙なムード歌謡みたいな音楽も。でも、よかったのはそれだけ。ちなみに、「いい」といっても、かっこいいとか渋いとかではない。笑っちゃいます。

この映画を観ようと思った理由はふたつあって、軽いほうからいくと、ひとつめは鶴田浩二が出ているから。しかし、友情出演で登場シーンが少ないうえに、ひどくかっこわるい。最近、鶴田浩二出演映画を観るたびに、かっこわるい、かっこわるいと言っているようで恐縮だが、今回は年もかなり取っているし、活躍シーンがあるわけでもなくてほんとうに冴えない。本人はお気に入りだと思われる「戦後の日本になじめない戦中派」の役なので、ある意味思い入れたっぷりにやっているが、その演技が劇画タッチな全体の雰囲気に合っていない。

もうひとつの重要な理由は、この映画が香港ロケだから。90%くらい香港ロケで、70年代の香港が見られると思ってわくわくしたのに、これがまた冴えない。監督は、香港で撮るということにとりわけ興味がないのか、香港を魅力的に撮ろう、観客に香港を見せようという意欲がぜんぜん感じられない。いちおう澳門(マカオ)も出てきて、大三巴牌坊(聖パウロ天主堂跡)と大炮台(モンテの砦)が写ったけれど、それだけ。内容からいってもキャストからいっても、石井輝男が撮ってもよかった映画のように思われ、もし石井輝男が撮っていたら、もっとずっとイケてる映画になったに違いない。

内容的には、かなり台詞に頼ってぎこちなくストーリーが展開していき、いかにも原作のダイジェスト版という感じである。ストーリーにも人物描写に厚みがない。たとえば、宿敵であり、かつ味方ともいえるようなゴルゴ13に対する香港の刑事スミニー(この名前はいったいなんなの?)(嘉倫)の複雑な感情や、スミニーと林玲(志穂美悦子)との関係など、もう少しちゃんと描いてほしかった。それに悪役がみんな薄っぺらすぎる。

加えて、かなり問題なのは日本語吹き替えである。登場人物のほとんどは香港人で、あとはイギリス人やその他の西洋人、日本人。国際的な麻薬組織の話でもあり、イギリス統治下の香港だから、刑事は香港人でもボスはイギリス人だったりするし、外交官も関わっている。広東語と英語を中心に、その他の言語も入り混じってインターナショナルな雰囲気でストーリーが展開されているはずだが、映画はぜーんぶ日本語。ゴルゴ13は七ヵ国語を自由にあやつるらしいが、日本語しかしゃべっていなかったよ。吹き替えによってインターナショナルな雰囲気が失われるだけでなく、登場人物の大半を占める外国人俳優は、吹き替えの軽薄な台詞まわしによって、さらに人物に厚みが感じられなくなっている。吹き替え自体もかなりお粗末で、台詞の長さが合っておらず、台詞の途中で訳のわからない長い空白が入ったりしてほんとうにひどかった。

通りすがりの広島風お好み焼で晩ごはんを食べて帰る。「18時以降は映画を観ない、観るときは先にごはんを食べる」がモットーなのに、2週連続の夜映画で疲労困憊。