フィルムセンターの特集「よみがえる日本映画vol.3[新東宝篇]」(公式)で、石井輝男監督の『リングの王者 栄光の世界』を観る。
宇津井健主演のボクシング映画。宇津井健の顔をお金を払って見たくはないが、石井輝男のデビュー作なので観ないわけにはいかない。ストーリーはハッピーエンドの成長物語で、紋切り型そのものだが、なかなか手堅い出来で、魚河岸などのロケ地の風景もいい。しかしながら、主演の宇津井健に救いがたいほど魅力がなく、どこから見てもヘンなのがすべてをぶち壊している。若さもないし、スポーツマンっぽくもない。それに、当時はそういう印象はなかったかもしれないが、現在のイメージからいうと、宇津井健は妖艶な女に誘惑されたりはぜったいにしない。目の前で何を見せられても何をされても、頑に断るヘンな人が宇津井健である。そうであってこそ宇津井健を起用する意味があるのであり、わりと簡単に若杉嘉津子に落ちてしまうなんてぜったいにあり得ない。
これよりもあとに作られたものだが、赤木圭一郎主演のボクシング映画『打倒 KNOCK DOWN』[C1960-58]とつい比べてしまうのも、この映画にとっての不幸である。全篇、赤木圭一郎の魅力にあふれているうえに、ストーリーも登場人物ももう少し複雑で、圧倒的に『打倒 KNOCK DOWN』に軍配が上がる。宇津井健なんかを押しつけられたのが石井輝男にとっての不幸であった。