実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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台湾旅行第三日:台北→新竹

新竹へ移動するので5時半起床。この時間だと、朝食前にできる身支度を全部済ませても、7時開始の朝食に間に合う。今日は「ここは日本か?」というような客層だったので、朝ごはんは早々に済ませる。部屋でトイレに行き、鍵を開ける→ドアを開ける(鍵には触れず)→外からドアを閉めるというまっとうな手順で浴室を出たにもかかわらず、なぜかロックされてしまった(わたしは悪くない)。J先生は「これは開けられる」と自信満々に鍵穴をほじくりはじめたが、三原葉子とは違ってぜんぜんダメだったので、結局フロントに頼んで開けてもらう。


チェックアウトし、荷物があるので軟弱に捷運で台北車站へ。9:00の自強1011次に乗り、10:11に新竹に到着(↑左写真)。白地に赤とオレンジのラインが入った車体は気に入った。新竹(新竹市)訪問は今回の旅行のメインイベントであり、その目的は言うまでもなく『九月に降る風』のロケ地探しである。到着したホームは、小湯(張捷/チャン・チエ)が屏東へ向かうシーンと同じ第二月台だったので、出てくる場所を確認。改札を出て駅舎に入り、同じシーンに出てくる切符売り場もチェックする。考えてみれば、ここは新竹での最後のシーンなので、帰りに確認するほうがより臨場感があったかもしれない。

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新竹は、2003年の黄金周に続いて二度目だが、滞在するのははじめて。宿泊予定の新竹福華大飯店まで中正路をがんがん歩く。少し南下したからか、あるいは日毎に気温が上がっているからか、まだ朝だというのに夏みたいに暑い。そして‘風城’と呼ばれるだけあって、風がびゅうびゅう吹いている。福華大飯店では、服務員のおねえさんの物腰とルックスに高級ホテルを感じて圧倒されつつ、チェックイン手続きを済ませる。

新竹での最初の訪問場所は、ホテルの少し北にある新竹市眷村博物館。新竹といえばハイテクというイメージだが、実は軍の街である。日據時代に海軍(航空隊)の基地があり、新竹飛行場もあったので、戦後空軍基地が置かれることになったらしい。だから新竹の街は眷村だらけで、いまの地図でも‘空軍三村’‘空軍五村’といった名前が目につく。新竹市眷村博物館は、実際の眷村を保存しているものではないが、新竹市内の眷村の分布や当時の暮らしなどの比較的充実した展示があった。ほかの客は全然いなくて貸し切り状態。入口近くにはお約束のスローガン(↑右写真)。


次はさらに北上し、國軍新竹地區醫院を外から眺める(↑左写真)。内部しか出てこなかったので未確認だが、おそらく『九月に降る風』で阿彥(鳳小岳/リディアン・ヴォーン)が入院する病院だと思う。

そろそろお昼なので、新竹都城隍廟を目指して南下。途中、中正路で葬列に出くわすと、J先生からビキニ姿で歌うおねえさん(↑右写真)を撮れと強要される。J先生のデジカメが壊れて、いざというときのバックアップがなくて不安なだけでなく、あれを撮れ、これを撮れとうるさく言われて閉口である。


続いて北門街に入るが、ここは近代建築、中華バロックの宝庫。以前にも見ているが、中華バロック好きの血が騒いで写真を撮らずにはいられないので(↑写真)、なかなか城隍廟にたどり着けない。


やっとたどり着いた新竹都城隍廟(↑写真)はものすごい混雑。勞働節は誰もがお休みというわけではないらしいが、やはりお休みの人が多そうだ。三級古蹟に指定された由緒ある廟だが、お目当ては境内を埋め尽くす城隍廟小吃。ここは『九月に降る風』で阿彥が謝孟倫をナンパするところでもある。阿彥と小湯が食事をしていた連家阿婆小吃で食べようかと思ったが、押しの強い台湾人一家に空いた席を取られてしまったので、前回食べておいしかった阿城號で炒米粉を食べる。

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食後は、行列のできている冬瓜仙草絲を買って飲む。その名のとおり冬瓜茶に仙草絲が入ったもので、これはけっこうくせになるかも。満腹になったところで『九月に降る風』のロケ地を確認。

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午後は少し遠出をして、北西部の海岸のほうへ行く予定である。新竹車站に向かって南下する途中、東門城廣場を通る。1829年竣工の竹塹城の東門(迎曦門)(↑左写真)も『九月に降る風』のロケ地。夜のプールで遊ぶシーンのあと、少年たちの楽しく平穏な日常生活がメドレー風に描かれるが、その中の阿翰(李岳承/リー・ユエチャン)がアイスクリームを買ってくるシーンである。

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東門城廣場のポップコーンの屋台に行列ができているという少し前の記事を見たが、いまは誰も行列していなかった。東門の下を南北に流れる護城河のまわりは親水公園として整備されており、市街地の中とは思えない、緑あふれる場所となっている(↑右写真)。

新竹市の西端の海岸は、全体が十七公里海岸風景區として整備されており、バスでその北端の南寮まで行く。北部には漁港があり、その南はゴミ処理場と環境保護区がセットになったようなところである。ここに来た目的はふたつの映画のロケ地探し。ひとつめは『練習曲』。東明相が5日めに訪れるところが、新竹市環境保護局焚化廠與行政大樓のあたりである。ふたつめは『九月に降る風』。上述の東門城廣場と同じ一連のシーンで、夕陽を浴びてバイクの練習をしているところである。波打った屋根の形が特徴的だが、これがこのあたりなのはわかったものの、具体的にどこにあるのかわからず、やっと新竹市環保局の南の海天一線公園に波打った屋根の涼亭があるのを突き止めた。

ところがバスを降りたとたん、J先生が「ナミナミがいっぱいあるよ」と言う。どうやら波打った屋根はいたるところにあるらしい。困ったが、とりあえず遠くに聳える新竹市環境保護局焚化廠與行政大樓をめざして歩く。十七公里海岸風景區には、貸し自転車屋を備えた自行車專用道が整備されている。最近こういったところがあちこちにでき、かなりの人気らしいが*1、露店で賑わう漁港から一歩入ると、おびただしい数の自転車に抜かれていく。しっかり走りたい人からヘタレな家族連れまで、どんな人にも対応できるように、二人乗り自転車やトライショーも用意されており、みんなそれぞれに楽しんでいる。


1.5kmくらい歩いて、新竹市環境保護局焚化廠與行政大樓(↑左写真)を正面に見る海天一線公園に到着。呉念真が運転するバスはいなかったので、余った弁当はもらえなかった。水分を確保せずに歩き出してしまったら、ここまでお店も自動販売機もなかったので、出店カフェで冰拿鐵を飲む。J先生は「帰るまでがまんできる」とか言っていたが、いったい何のためにがまんをしなければならないのか。

『練習曲』に出てくるところは確認したが、波形屋根の涼亭(↑右写真)は『九月に降る風』のロケ地ではなかった。

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途方に暮れるが、環保局手前の看海公園にもナミナミが見えたのを思い出し、とりあえず行ってみたらあっさりここだった。

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ふたたびバスで街へ。15時までに戻ってくる予定だったのが、すでに17時を過ぎて日が暮れかけている。しかし「街に戻ったらかき氷」とずっと念じていたので、少し涼しくなっても食べないわけにはいかない。城隍廟そばの阿忠冰店へ行き、名物の鳳梨冰を食べる。

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すでに黄昏が近づいていたが、どうしてももう一箇所、今日中に行っておきたいところがあった。『九月に降る風』に出てくる野球場、新竹市立中正棒球場である。郊外なのかと思ったら、街を歩いていたらいきなり野球場にぶつかった、という感じに思いっきり街中にあった。今日は試合がないせいか、テナントも軒並み閉まっていて寂れた雰囲気(↑左写真)。正面にまわり、映画に出てくるところをチェックする。棒球場が出てくるシーンは3回くらいあるが、正面玄関(↑右写真)が出てくるのは3回め、阿彥と小湯が仲直りをする重要な場面。

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そういえば、先日来ニュースで廖敏雄(リャオ・ミンシュン)の名前を時々耳にする。おそらく、野球賭博に関係した元選手を教職に就けなくしようとしているというニュースで、いまは高中で野球を教えているらしい廖敏雄の名前も出ていた。わたしはこの事件についてほとんど知らないが、悪いのは黒社会なのに、選手ばかりが見せしめ的に制裁を受け続けるのはおかしいように思う。

今日の任務はこれにて終了。いったんホテルに行って部屋を見ておくことにする。部屋は広いし、装備は高級だが全体的にシンプルで雰囲気もいい。シャワーとバスタブも別になっている。ところが、ない。何が? シャワートイレが。新竹福華大飯店は五つ星である。近代建築かロケ地ででもないかぎり、ふつうは泊まらない。中心部にホテルが少ないことや、五つ星でも台北で泊まるホテルとほぼ同額であることもあったけれど、ここに決めた決定打はシャワートイレであることだった*2。ないと告げたときのJ先生の落胆たるや、思うべしである。「その慰安法をいかにすべきか」ということは、全く考えていなかった。


気を取り直して晩ごはんに出かける。まずは昼間から目をつけていた鄢貓包という肉まんのお店(↑左写真)。百年老店である。テイクアウトのみなので、行列に並んで買って立ち食い。もちろん黒猫肉が入っている、わけではない。叉焼包みたいな甘辛系の味で、ジューシーでうまい(↑右写真)。やはり繁盛している隣の鴨肉許も気になったが、席がないので長和宮脇の竹山意麺で意麺を食べた。台灣啤酒を買って、9時前にホテルに帰る。今日の歩数は29565歩でちと足らん。

せっかくシャワーが別なので、お湯をはってお風呂に入った。海外旅行でお風呂に入るのはたぶんはじめて。トイレとの間の一面しか壁がないので、けっこうシャワーが飛び散るのが難点。部屋に除湿器があるのはいいが、洗濯ロープがないのも問題だ。

香港にH1N1確定患者が出て、インフルエンザ騒ぎは一層大きくなった。患者は上海経由で香港に入国したメキシコ人で、泊まっていたホテルごと隔離されて大変なことになっている。患者が出るのは‘淪陷’と呼ばれていて、‘淪陷區’というのは日本軍に占領されたところを指す言葉だったから、なんだか凄まじい印象を受ける。まだ‘淪陷’していない台湾では、マスクをしている人もそれほど多くないし、特に危機感は感じない。報道が盛り上がっているのは日本と同じだが、やはりSARSを経験しているだけに、当事者意識みたいなものが違うと感じる。日本の場合、「やっかいなものが外から入ってきてヤだな」というふうにしか感じられないが、台湾の場合は、自分たちの問題として受け止めて対処していこうという決意のようなものがどことなく感じられる。

*1:淡水や八里もそうだ。

*2:台北ナビで見たつもりだったが、あとでよーく見たら「スィートの寝室」のトイレだった。