実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『黄瓜(きゅうり)(黄瓜)』(周耀武)[C2008-12]

2本めは、周耀武(チョウ・ヤオウー)監督の『黄瓜(きゅうり)』。違法の路上屋台で野菜を売る大陳とその家族、そこの客であるリストラされた老陳とその家族、同じくこの屋台の客である映画監督をめざす小陳とそのガールフレンド。この三組の家族やカップルの物語が、きゅうりをキーワードに並行して語られる。フィックスの長回しで主要な登場人物を次々に紹介し、彼らが野菜売りの屋台で交錯する導入部分がみごと。

三つの物語はどこかユーモラスに進んでいくが、最後は悲劇。考えてみれば、最初から最後まで、どこから見てもかわいそうな、涙がちょちょぎれるような悲劇というのは現実にはあまりない。喜劇のような悲劇。あるいは悲劇のような喜劇。現実とはそのようなものなのではないか。

親子三人が食にとり憑かれている大陳の一家、親子三人がセックスにとり憑かれている老陳の一家に比べると、小陳のカップルはちょっと存在感がうすいように思った。

『完美生活』が南をめざす人々の物語であるとすれば、こちらは首都北京をめざした人々の物語。北京人であるにもかかわらず失業してしまった老陳。職だか豊かな生活だかを求めて北京に来たものの、違法な仕事にしか就けず借金に追われる大陳。映画監督になる夢を実現させるため北京に出てきたが、思うようにいかない小陳。現代中国っぽい背景と、誰もが抱えているような普遍的で日常的な問題が、ほどよくミックスされている。

舞台は北京の郊外(海淀あたりか?)。城内ほどではないにしても、簡体字の街ではない、どこか「ああ、北京だな」という美しさを感じさせる。デジタルにもかかわらず、暑さや風が感じられる長回しの映像が印象的。

上映後は周耀武監督をゲストにQ&Aがあったが、参加すると夕食時間が圧迫されそうだったので、パスしてMeal MUJIで晩ごはん。第一優先は映画だけれど、ごはんもかなり優先度が高い今日このごろである。