バンガロールに来ちゃったの

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『ドラマー(戰・鼓)』(畢國智)[C2007-15]

16時半に会社を出て、御用達のMeal MUJIで晩ごはん、それから有楽町朝日ホールへ。東京フィルメックス4本目の映画は、畢國智(ケネス・ビー)監督の『ドラマー』(公式)。畢國智の映画は、2004年の東京国際映画祭で『ライス・ラプソディー』[C2004-08]を観ている。以前フィルメックスで上映されたらしい短篇は観ていない。

おいらはドラマー、ヤクザなドラマー♪の映画。香港で問題を起こして台湾へ逃亡し、太鼓演奏集団・禪鼓山人(“優人神鼓”の人たちが演じている)と出会って精神的に成長し、確執のあった父親と和解するというお話。香港の夜の喧騒、ヤクザや父親との争いが描かれたあと、舞台が台湾に移ると、雲のかかった美しい山々などが映る。イヤな予感がします。禪鼓山人は原住民を含む集団で、山の中で共同生活を送り、禅や拳法を取り入れた太鼓修業を行っている。電気もない、自給自足のロハスな生活、おそろいの服や男性の坊主頭、禅問答的精神世界…。イヤな予感がします。

香港と台湾の露骨な対比のさせ方がイヤだし(監督にとっておそらく台湾は異邦だから、こういう妙な美化をするのかもしれないが)、この太鼓集団に我慢がならなかった。石を入れた袋をいつも背負って歩けとか、そんなのやってられっかよー、いいかげんにしろよー、ざけんなよー、と思ってしまうのを止められない。その教義に賛同する人たちが集まってやっているのは勝手だが、とりあえず太鼓に惹かれてやってきた者に対してこういうふうに紹介されて、このあと彼はここで生活して矯正されるんだな、というのがミエミエだったので、どうにも反発を感じてしまった。

主演の房祖名(ジェイシー・チャン/ジェイシー・チェン)の本当のお父さんは成龍(ジャッキー・チェン)だが、映画の中での父親は梁家輝(レオン・カーファイ)。これがヤクザで、ほとんど『エレクション(鄢社會)』[C2005-43]から抜け出してきたような、すぐに切れる暴力男。『Exiled 放・逐』[C2006-41]に続いて張耀揚(ロイ・チョン)と何超儀(ジョシー・ホー)も出ている。張耀揚は、房祖名のお目付け役で一緒に台湾へ行く梁家輝の片腕だが、自己啓発セミナーにハマったりしているのがお茶目で、いい兄貴ぶりみたいなのが印象に残る。でも、ああそれなのに、それなのに♪

房祖名が禪鼓山人で一人前に成長して演奏会のために香港に戻り、梁家輝は実は息子のことを思っているいい親父で、直接は会わないもののふたりは和解して…と多少情緒過多に話が進み、このままちょっといい話みたいに終わったらイヤだなあと思っていたら、思わぬ展開になった。とはいえ、それでよかったのかどうかはいささか疑問である。あれが、房祖名が大人になるための通過儀礼として描かれているのだとしたら、いささかご都合主義というか利用された張耀揚が気の毒である。一方、黒社会映画のテイストを入れたかったのだとしたら、それはそれでやはり唐突である。張耀揚が自己啓発セミナーで学んだ前向き思考の効果だとしたら…、ただでさえセミナーがあまり批判的に描かれていないのが気になっていたのに、もう怖すぎる。

李心潔(アンジェリカ・リー/リー・シンジエ)が出ているのも売りのひとつ。房祖名にいきなり蹴りを入れてかっこよく登場したときは期待したが、師匠を盲目的に慕っているという役はちょっと表層的で、今ひとつ彼女の魅力を発揮しきれていないように思った。

上映前に畢國智監督と主演の房祖名の舞台挨拶があり、房祖名はおばさんだらけの観客に嬉しそうに手を振るいい子だった。挨拶は、畢國智は広東語、房祖名は北京語。上映後には畢國智監督によるQ&Aがあったのだが、明日おつとめなのでパスして帰る。