実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『九月に降る風(九降風)』(林書宇)[C2008-06]

2本めは、ユーロスペースで林書宇(トム・リン)監督の『九月に降る風』。去年の東京国際映画祭(id:xiaogang:20081023#p1)につづいて二度め。その後DVDでも何度か観ている。

  • まずはタイムリーな話題から。冒頭のプロ野球観戦のシーンで、阿翰(李岳承/リー・ユエチェン)が投げられた靴を拾うためにグラウンドに降りようとするところ(仲間がやめさせようとしているところまでしか描かれていないが、その後の台詞によれば降りたらしい)。いちおう笑うところなのだけれど、先日の横浜スタジアムでの事故の直後だけにちょっと笑えない。
  • 林書宇監督は7人の少年のうちのどれか、ということについて、前回は超人(林祺泰/リン・チータイ)ではないかという意見を出してみた。しかし、監督のインタビューによれば小湯(張捷/チャン・チエ)のようだ。もちろん、素直に観れば小湯であると考えるのがふつうである。主人公ではないほうが描き方としてはおもしろい、失礼ながら張捷ではちょっと美化しすぎである、超人の存在感がだんだん増してくるのが気になるといった理由から、ちょっとヒネた見方をしてみたのだが。
  • 卒業式のシーンに、無人の司令台裏の小径、屋上、プール、ガジュマルの広場のショットが挿入されているところが好き。
  • 7人の少年の中でだれがいちばんいいかというと、阿行(王柏傑/ワン・ポーチエ)である。東京国際映画祭での上映時にナマ王柏傑も見ているが、そのときは、「鳳小岳(リディアン・ヴォーン)とか張捷とか、もっとメインのキャストは来ないのか」と不満に思っていた。もったいないことしたよ。
  • 阿彥(鳳小岳)と小芸(初家晴/ジェニファー・チュウ)がMTVで観る映画は、監督のインタビューによると、最初の候補は『牯嶺街少年殺人事件』[C1991-16]だったが、権利問題で使えなかった。それで、内容がこの映画にマッチしている『恋恋風塵』[C1987-71]か、当時流行っていた『Love Letter』かで迷って、結局『恋恋風塵』にしたということである。実際に流行っていたというリアリティも重要だが、これが『Love Letter』だったらわたしの評価は★ひとつぶんくらい下がっていただろう。内容がマッチしているということなら、『風櫃の少年』[C1983-33]モアベターな気もするが。
  • 去年の上映のあと、この映画における「親の不在」について書かれている感想をいくつか目にした。たしかに親はほとんど出てこないし、どの少年の家も、少なくとも四六時中家族団欒しているような家ではなく、ある程度自由放任であるといえるだろう。しかし、親が子供をほったらかしにしているわけではなく、親との言い合いなどは単に省かれているとみるべきだと思う。それによって、自分たちのしたことが引き起こした結果と責任を、自分たち自身で引き受けていこうという少年たちの決意を表しているように思える。
  • 卒業式で歌われる“藍色蝴蝶”は、実際に‘竹東高中畢業歌’だそうだが、このメロディは陳百強(ダニー・チャン)の“喝采”のイントロにそっくりである。シンプルなメロディなので、偶然ということもあり得ると思うが、どちらが先なのか気になるところである。パクリだとしたら、“藍色蝴蝶”→“喝采”は許されても、“喝采”→“藍色蝴蝶”は許されないだろう。‘藍色蝴蝶’が女の子の制服のリボンのことだということだというのは、今日観ていてはじめてわかった。
  • 登場人物が、‘國立竹東高中’と書かれたかばんを使っているのを発見してしまった。当時(1996〜1997年)は台灣省立竹東高中だったはずで、かばんには‘省立竹東高中’と書かれていたはずである。用意しないのなら、アップにしないなどの工夫をしてほしかった。
  • 『Clean クリーン』の上映前にはじめて本予告編を観たが、かなり不満な内容だった。少年たちの青春が、台湾プロ野球と廖敏雄(リャオ・ミンシュン)と重ねられていることがこの映画のキーなのに、台湾プロ野球に全くふれられていないのはいかがなものかと思う。さらに、この映画はあくまで男の子たちの物語だと思うのに、三角関係の話みたいにみえるのも、観たあとで「期待していたのと違う」と観客に思わせてしまうことになりかねない。
  • いくつかのブログなどに、この映画に(も)風車が出てくると書いてあって、ずっと疑問に思っていたが、やはり風車は出てこなかった。

プログラムにロケ地情報が載っているということだったので、競合調査のため購入。二点ほど知らない情報もあったが、たいしたことは書いてなかったので安心。

とんきでひれかつを食べて帰る。