実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『Clean クリーン(Clean)』(Olivier Assayas)[C2004-46]

1ヵ月近く映画を観ていなかったが、今日から怒涛の映画月間というか映画四半期が始まるので、久しぶりに世間に出る。遅めに出京して、シンガポール映画祭の前売りなどを買ってからシアター・イメージフォーラムへ。あまりに暑いので、すぐそばの某イスラエル支援企業でフラペチーノを買ってしまった。懺悔します。シアター・イメージフォーラムで映画を観ることは比較的多いが、あの場所は駅や渋谷のよく行く場所から遠すぎ。ユーロスペースのビルに移動してほしい。

観たのは、オリヴィエ・アサイヤスの『Clean クリーン』。2004年の映画なのに、やっと一般公開された。張曼玉(マギー・チャン)主演という時点で観るのは必須なので、内容は全く知らなかったが、ある意味、非常にタイムリーな話で驚いた。ジャンキーのミュージシャン夫婦、幼い男の子、薬物摂取による急死…。どこかの二つの事件をくっつけたような設定だ。このようなタイミングでの公開になるなんて、きっと配給会社の人もびっくりだろう(だからといって入りがよくなるわけでもない気はするが)。のりピーは、ぜひこの映画を観て更生してほしいものである。中華圏で人気ののりピーが、張曼玉から更生への道を教えられるというのも何かの因縁に違いない。

といったことはまあどうでもいいが、映画を観るというより、いつも疾走しているかのような張曼玉といっしょに人生を駆け抜けるといった感じの映画体験だった。終わってみれば、彼女が夫の死やら薬物中毒やらを乗り越えて再生するまでを描いた映画、というふうにまとめることができるが、観ているときはこの物語がどこへ向かうのか考える余裕もなかった。「母親が子供のために生まれ変わる」というのはわたしの好みではないが、彼女は最終的に息子も歌手の夢も諦めないという選択をするのがよかった。

変わっていくにつれて、あるいは変わることの困難さに伴って、がんがん変化する張曼玉の表情も魅力的だが、ほとんどいつも、疾走する張曼玉の身体とともにある赤いマフラーも印象的。赤いマフラーといえば、『春の日は過ぎゆく[C2001-03]の李英愛(イ・ヨンエ)(結婚したって本当ですか?)も印象的だが、わたしもひとつもっているのでこの冬は活用すると心に決めた。

舞台は、ハミルトン、バンクーバー、パリ、ロンドン、サンフランシスコと移り変わり、一種のロードムービーといえなくもない。しかしながら、車やバイクでの移動は頻繁に描かれるのに、飛行機などの長距離移動は全く描かれず、登場人物たちが非常に軽やかに、都市から都市へと移動しているようにみえる。バンクーバーに住む義父のニック・ノルティは、家からそれほど遠くないと思われるところへ張曼玉に会いに行くのに、レンタカーでかなり頼りなげにやってきて、頼りなげに帰っていくが、ロンドンやパリへは軽々と移動している。

冒頭、カナダで英語を話しながら登場した張曼玉に、「けっ、英語かよ」といささか失望したが、中国系フランス人と思われる彼女はその後パリへ行き、おフランス語をがんがん話しだしたので安心した。家族の経営する中華料理店で広東語を話してみせるサービスショット(?)もある。カナダで夫の両親に育てられている息子は、自分に中国人の血が流れているという認識がなさそうなので、張曼玉はクマのぬいぐるみの代わりにパンダのぬいぐるみを買い与えるべきである。

ところで、すっかり忘れていたけれど、これ、以前にシネフィル・イマジカで放映していて、うちにDVD-Rがあった。なんだか得した気分ですね。