実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『奪命金(奪命金)』(杜琪峰)[C2011-29]

有楽町朝日ホールで、杜琪峰(ジョニー・トー)監督の『奪命金』(東京フィルメックス)を観る。第12回東京フィルメックスの特別招待作品の一本で、クロージング作品。

香港にふさわしくお金がテーマ。お金に翻弄される人々の悲劇が、皮肉な結末によってハッピーエンドに転化する喜劇。

仕事熱心だが家庭では優柔不断な警部・任賢齊(リッチー・レン)とマンションが欲しい妻・胡杏兒(マイオリー・ウー)。営業成績の悪い銀行員・何韻詩(デニス・ホー)と高利貸しの顧客・廬海鵬(ロウ・ホイパン)。義理堅いだけが取り柄のヤクザ・劉青雲(ラウ・チンワン)と株ブローカーの姜皓文(フィリップ・キョン)。これら三組の物語が、ヨーロッパの金融危機を背景にした株価の急激な変動によって一点で交錯する。その一点まで、三つの物語は並行して描かれるというよりはひとつずつ順番に語られる。任賢齊が現在関わっている事件とか、何韻詩が顧客になかば強引に投資信託を買わせるところとか、直接関係はないけれど人物の背景として重要な部分が時間をかけて描かれていておもしろい。

何韻詩がすごくよくて、話も、クライマックスに向けての疾走感も、彼女のパートがいちばんよかった。(世評では絶賛する声が多いようだが)劉青雲のアタマの弱そうな演技は見ているだけで疲れて、彼のパートはかなりしんどかった。任賢齊のパートは、貸すためのマンションを買うのに一生懸命になるというのはぜんぜん理解できないが、任賢齊の優柔不断ぶりがあんまりなので、うまくバランスが取れていると思った。

構成は興味深く、なかなかよくできていると思うし、株価の上下をビジュアルに示したりして経済に弱くてもよくわかるように工夫されてもいたが、やっぱりお金の話はいまひとつ興味がわかないなあと思ったりするのであった。