バンガロールに来ちゃったの

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『愛を探すこどもたち(Invisible Children)』(Brian Gothong Tan)[C2008-27]

今週末はシネマート六本木のシンガポール映画祭で、シンガポール映画にどっぷりつかる予定。今日は遅めに出京して、まず3プログラム分の整理券をもらいに行く。ロビーにフィルメックスの速報版チラシがあり、見ると今年の特集はジャン=ピエール・メルヴィル。なんと『ギャング』[C1966-07]をやるらしい。うれしいくて小躍りしながらガレットを食べに行く。

一本めの映画は、Brian Gothong Tan(ブライアン・ゴソン・タン)監督の長篇第一作、『愛を探すこどもたち』(だれがつけたのこの邦題? ひどすぎる)。いろいろな言語によるニュース音声と、縦に突き出された物干し竿の洗濯物の映像で始まり、街中のあちこちにあるスローガンや禁止事項が映し出されるこの映画は、HDBフラットやカヤ・トースト(トーストせずに食うな>弟)、マーライオン、蚊の駆除といったものから、高圧的な教師に画一的な教育、抑圧的な軍隊生活、過酷な労働といったものまで、シンガポール的なものに満ちている。後者のようなイヤな面、ひとことで言えば閉塞的な社会状況の印象がとりわけ強い。

このような生活や社会から外に出て行くことが、この映画のひとつのテーマである。ヒステリーの母親(Karen Tan)と、彼女に虐待され気味の姉(Kimberly Chia←Singapore teen beauty queenらしいです)と弟(Kyle Chan)。規律を守らない部下をもつ軍人(Chee Chuan Yang)と、超多忙な下っ端弁護士であるその婚約者(Cindy Teo)。模型を作るのが趣味(浅草のミニチュアを作っている)の潔癖症の男性(Lim Poh Huat)と、マーライオン航空(架空だよね?)の客室乗務員である片付けられない症候群の女(Isabella Chiam)。これら3組の人々が並行して描かれているが、いずれも「出て行こうと試みる人(々)」と「ここに留まろうとする(留まらざるを得ない)人」の組み合わせのように思える。そんな内容を象徴するかのように、「出て行け」という台詞が再三吐かれる。

これら3組がどう交わるのだろうと思っていたら、ほとんど交わらずに終わってしまった。それはそれでいいのだが、邱金海(エリック・クー)がエグゼクティブ・プロデューサーなので、「またかよ」感が漂うのは否めない。ちなみにこの映画は、邱金海の『12階』[C1997-09]へのオマージュらしいのだが、どのあたりがオマージュかわかるほど憶えていなかったので、今日の朝イチで上映された『12階』を観るべきだったとちょっと後悔する。

この映画に出てくるシンガポールのイヤな面で、いちばんすごいのは学校。「シンガポール人は幸福か?」という作文で、最も優秀だとして読まされるのが、もう北朝鮮もびっくりの内容。それを絶賛するサイアクの教師を演じているのは、なんと楊雁雁(ヤオ・ヤンヤン/Yeo Yann Yann)。楊雁雁老師がいたらうれしいかもしれないが、未成年の時期をシンガポールで過ごすのはぜったいにイヤだと思う。

細かい説明はかなり省略されており、断片からいろいろと想像するしかないが、一方で、登場人物がじっと考えているところなどが長々と映し出されるのが印象に残る。軍人の男性が部下の宿舎へ行って、寝ている部下(林碰志/Leon Lim Yu Zhi)のハダカに動揺するところも印象的。

この映画につづいて、ブライアン・ゴソン・タンが監督した2本の短編も上映された。一本は、“Imelda Goes to Singapore”という、袖にスーパー袋をつけた女性(イメルダ?)が“Dahil Sa Iyo”を歌っているもの。もう一本の“Sex Trauma Violence”には、『愛を探すこどもたち』の母親役のKaren Tan(ですよね?)が出ていた。このおばさんは、顔の雰囲気からいっても、加藤泰にとっての沢淑子(任田順好)みたいな、ブライアン・ゴソン・タンのミューズなのかもしれない。ところでこのシンガポール映画祭、有志のかたががんばってやっているみたいなのであまり文句は言いたくないけれど、短篇もせめてタイトルくらいはチラシに書いておいてほしいです。

上映後、ブライアン・ゴソン・タン監督(実物)をゲストにQ&Aが行われた。監督はまだ29歳で、映画監督としては駆け出しだが、すでにアーティストとして活躍しているらしい。若返って一回り小さくなった彭浩翔(パン・ホーチョン)って感じ。この映画に直接関連する情報は、3組の物語で時間は同期していない、ということぐらいだったが、邱金海監督についての話があった。彼はシンガポールでも指折りの富豪の御曹司で(ペナンの邱ファミリーと関係がある?)、お金にカツカツしていないが、だからといって高級品をもっていたりするわけでもなく、食事に連れて行ってくれるところも気軽な店だそうだ。