実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『完美生活(完美生活)』(唐曉白)[C2008-11]

今日は東京フィルメックスのための有給休暇。午前中はないので、ゆっくり出かけてCAFE FREDY TAPASで早めの昼ごはん。それから有楽町朝日ホールへ。

フィルメックス1本めは、唐曉白(エミリー・タン)監督の『完美生活』。中国人女性がよりよい生活を求めて流れていくお話。全体を覆っている重たい空気感がなかなかいい。

メインの物語のヒロインは、瀋陽附近と思われる地方都市に住む、21歳のYOU似の女の子(姚芊羽/ヤオ・チェンユイ)。これと並行して描かれるドキュメンタリーのヒロインは、中国から香港に移住した30代くらいの女性(謝珍妮/ジェニー・ツェー)。まず深圳へ、そして香港へ、という「南へ南へ♪」は、中国で上昇をめざす場合のひとつの典型的なパターンである。ふたりとも男を頼って、というか男を利用して南進するわけだが、ふたりとも「男を踏み台にする」と「男に人生を台無しにされる」の中間くらいの位置にいる。

姚芊羽は、まずボーイフレンドのコネでホテルに職を得て、そこで怪しげな男(『世界』[C2004-34]に出ていた成泰燊(チェン・タイシェン)が、いかにも怪しげだけどなんだか憎めない雰囲気で演じている)と知り合って深圳へ。だけど成功パターンへの道はそう簡単ではなく、成泰燊は殺され、姚芊羽はパッとしない男と結婚。一方の謝珍妮は、うまいこと香港人と結婚して香港に移住したものの、夫の事業の失敗→水商売→家庭崩壊→離婚の転落パターン。言葉の壁もある香港でまっとうな仕事を見つけるのは難しく、結局深圳へ戻ろうとしている。

そして深圳という、誰にとっても目的地ではない曖昧な場所で、ふたりは一瞬すれ違う。サブタイトルをつけるとすれば「流れて深圳」。あるいは「そして深圳」か。思うようにはいかないが、希望を持ち続けて進んでいくように見える姚芊羽と、一時は成功したかに見えたのに敗れ、それでも子供を抱えてなんとか生きていかなければならない謝珍妮。姚芊羽は最後までどこか浮ついた雰囲気があり、それに対して謝珍妮には切羽詰まった切実さがつきまとっている。姚芊羽が節目節目で撮る自身の写真が印象的だが、最後に結婚写真といっしょに写真を撮る彼女は、これから香港へ向かうのだろうか。謝珍妮は姚芊羽の未来を暗示しているようにも見える。

この映画には旧市街、老街みたいな街は出てこず、出てくるのは比較的最近発展したような地方都市。中国には数多あるこういった味気ない都市を見ると、わたしはいつも簡体字のあの独特のスカスカ感を連想する。簡体字のような街。それに対して、香港はやっぱり繁体字のような街だと思う。

姚芊羽が映画館で『花様年華[C2000-05]を観ていたのがうれしいサプライズ。北京語版なのがちょっと違和感があったけれど。