東京フィルメックス2本めは、 同じく有楽町朝日ホールで林超賢(ダンテ・ラム)監督の『密告者』(FILMeX紹介ページ)。コンペティション作品。
張家輝(ニック・チョン)が刑事、謝霆鋒(ニコラス・ツェー)が密告者に扮した警察映画。密告者といっても犯罪組織の中のだれかを買収するのではなく、最初から情報提供者としてもぐりこませるという本格的なもの。密告者の廖啓智(リウ・カイチー)に重傷を負わせた過去をもつ張家輝が、時に使い捨てにされる密告者に同情し、謝霆鋒に刑事と密告者という関係を超えて肩入れする、という物語。ただ、ふたりのあいだに特別な関係が生まれるわけではなく、あくまで張家輝から謝霆鋒への一方通行のもの。残念ながら、熱く見つめあうシーンもない。
ただ張家輝の肩入れのしかたがちょっと常軌を逸しているのが見もの。終盤彼は、元妻の父親に殴られたり交通事故を起こしたりするが、どうやらこれらは張家輝を血まみれにするのが目的らしい。張家輝は自分の一存で謝霆鋒に報酬を届けに行き、犯罪組織の内輪もめに巻き込まれて死闘を繰り広げるが、彼が最初から血まみれのため異様な雰囲気と緊張感を醸し出し、なかなか見ごたえのあるシーンになっている。
ただ、女や家族が絡むドラマが情緒的すぎる。たぶんふつうの商業映画なので、一般受けするような通俗性も必要なのかもしれないが、もっと徹底的にクールにまとめてほしかった。適度に情緒的なシーンが非情さを強調するのに役立つというのはあるが、この映画の場合はベタベタすぎ。しかもそういうものをいろいろ入れたせいで、詰め込みすぎな印象をぬぐえない。
張家輝はかなりの熱演だが、時に関根勤に見えてしまうのが難点。謝霆鋒は、二枚目のイメージに拘ることなくムショ帰りのチンピラを演じていてなかなかよかった。ボスの女役が桂綸�(グイ・ルンメイ)というのが意外なキャスティングだが、思ったより悪くなかった。桂綸�である必然性も感じなかったけれど。
この映画の見どころは、なんといってもロケ地である。前半から、出入り口がたくさんある複雑な構造の建物が主要な舞台として使われたり、小さな店がごちゃごちゃ並ぶ迷路のようなところでの追跡劇など、香港の街で撮られた映画の魅力を見せつけてくれる。圧巻は終盤の死闘の舞台、茶果嶺。廃墟みたいな建物や、廃校になった学校みたいなところなど、魅力的な場所が有効に使われている。今度香港に行ったらぜったいに行ってみたいところ。
そして極めつけは、最後にちょこっと出てくる『欲望の翼』[C1990-36]のトンネルである。
ところで、広東語の知識がそれほどないのでよくわからないのだけれど、原題の‘綫人’というのは「密告者」でいいのだろうか。意味はそうだろうけど、「タレコミ屋」や「いぬ」みたいな俗語ではないのだろうか。