東京フィルメックス1本めは、有楽町朝日ホールで陳翠梅(タン・チュイムイ)監督の『夏のない年』(FILMeX紹介ページ)。コンペティション作品。
舞台は東マレーシアの小さな村。久しぶりに故郷に戻ってきた歌手のアザムと、その村に住む幼なじみのアリ、その妻ミナの物語。
動かないカメラに長回しと、スタイル的にはかなり好きな映画。特に好きなのは、アリのお母さんが座っているシーン。窓を開け、アザムの歌のカセットをかけて座っていると、やがて雨が降り出し、それがだんだん強くなっていく。その風景や、部屋の空気が変わっていく感じがなんともいえずいい。
しかし、物語的には自分と重ねられる部分がなさすぎて、なんとなく入り込む取っ掛かりがないままに終わってしまった。まず、マレーシア東海岸には行ったことがない。しかも町ではなくて海辺の漁村で、釣りとかイノシシ狩りとか、馴染みのない未知の世界が展開する。最初は、向こうに江ノ島が見えるから舞台は鎌倉で、けっこう波があるのにサーファーがいないなあとか思いながら観ていたのだけれど。
また、故郷を出る/捨てるというのが重要なモチーフになっているが、わたしは故郷に愛も憎もないので、そういうのがよくわからない。わたしも田舎から都会に出てきた人間だけど、出ていくのに苦労していないせいか、出たら帰らないとか、成功しないといけないとかいった気持ちはない。逆に故郷に愛着もないから、必要があれば帰るけれど、特に懐かしいとも思わないし、帰ってずっと暮らす可能性は皆無だ。だから正直言ってこういうテーマは苦手。
人魚や浦島太郎に似た話も出てくるが、そういったものを引き合いに出して語られる寓話めいた物語というのもあまり好きではない。出てくる話は、最後の部分が浦島太郎とは異なるのだが、観ながら「浦島太郎にはほかに熱海秘宝館バージョンもあるよ」と思ったのはわたしだけではあるまい。
話に入り込めなかったのはわたしの観賞態度にも問題があって、というのは、まさか陳翠梅の新作がこんなマレー人の話だとは想像もしていなかったのだ。これは前フリで、そのうち華人が出てくるはずと思いながら観ていて、「出てこないな」「いったいいつ出てくるんだ」などと思っているうちに終わってしまったのだった。最初からこういう映画だと知っていれば、もう少し違う感想をもっただろうと思う。
映画の舞台は、クアンタン(Kuantan)に近いKampung Sungai Ular(蛇河村)というところ。監督の故郷らしい。
上映後、サウンドデザインを担当した張子夫(ピート・テオ)氏をゲストにQ&Aが行われたが、晩ごはん時間を確保するためパス。このQ&Aのレポートはこちら(LINK)。また、11月24日(水)に陳翠梅監督と張子夫氏をゲストに行われたQ&Aのレポートはこちら(LINK)。