実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『心のともしび(Magnificent Obsession)』(Douglas Sirk)[C1953-V]

PFFダグラス・サークを観てさっそく買ったDVD-BOXから、まず『心のともしび』(映画生活/goo映画)を観る。

夫の命を奪った男(ロック・ハドソン)と若い(といっても30代)未亡人(ジェーン・ワイマン)とのメロドラマ。舞台はもちろん十和田湖(ウソだけどどこかの湖畔)。つまりアメリカ版『乱れ雲[C1967-04]。『愛染かつら』[C1938-09]、『暖流』[C1939-09]と並ぶ病院メロドラマ御三家といってもいい。堪能した。スクリーンで観たい。

冒頭いきなり『秋刀魚の味[C1962-02]モード。
「あいつ血圧も高かったしね。」「やっぱり若い女房が祟ったんだよ。」
直接の死因はともかく、発作に備えて人工呼吸器を常備している人間が、後妻をもらって半年で亡くなれば、若い妻や再婚が非難されたり、あれこれ噂されるのがふつうである。ところがそんなことは全く言われず、亡くなった夫の娘や友人から夫が経営していた病院の職員に至るまで、誰からもひたすら同情され、いたわってもらえる特異な女性がヒロイン。

実は財産はほとんど残されておらず、病院の経営も思わしくないことがわかる。佐分利信が建て直しに乗り込んでくるかと思いきや、そういう展開にはならない。ロック・ハドソンは間接的ではあれ夫の命を奪ったうえに、(これも間接的ではあるが)ジェーン・ワイマンを盲目にしてしまう。加害者と被害者の恋に加えて難病ものの要素も加わり、メロドラマ度は最高潮。ジェーン・ワイマンはおばさん顔で好きじゃないが、サングラスをかけると悪くない。

乱れ雲』と違うのは、主人公たちに葛藤がないところ。ロック・ハドソンジェーン・ワイマンの赦しを得るために、死んだ夫がやっていた慈善事業に没頭する。罪を償いさえすえば資格は得られるという現実的で前向きな思考がアメリカ的。一方、足手まといになるのを恐れるジェーン・ワイマンは、想いが通じたとたん迷わず消える。ふたりがスイスで再会した夜の、とても美しいシーンの翌日である。このへんは『愛染かつら』か。

ロック・ハドソンは、一度は放棄した医師への道をふたたび歩み始めるので、彼がいずれジェーン・ワイマンの目を治す、という展開になるのは必至である。しかし一見ハッピーエンドのラストシーンは、そのまま受け取っていいものだろうか。ジェーン・ワイマンが消える前夜と同じ台詞が繰り返され、甘美ななかにただならぬ気配を漂わせつつエンドマークが出ると、やはり幸福な明日は来ないのだと思わざるを得ない。

ロック・ハドソンが人知れず行う慈善にはまる点が強調されているが、これがボランティアの宗教的本質をついていて興味深い。原作は牧師が書いたものらしいので、善行を勧めるねらいだったのかもしれないが、映画では慈善の魔力を語る画家の言葉が不気味に繰り返されてかなりこわい。