『北京大学てなもんや留学記』読了。
- 作者: 谷崎光
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/07/10
- メディア: 文庫
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結果はだいたい予想したとおりの本だった。気楽に読むのにはおもしろいと思うし、中国語学習方法についてなどためになる部分もある。でもね…。
まず、著者が中国のどこに興味をもっていて、なぜ、何の目的で北京大学へ留学したのかが全然わからない。とりあえず、映画や芸能や建築や文学や歴史に興味があるようには思われない。著者の立ち位置や自分との距離がある定まらないうえに、思いつくままに書いたようなまとまりのない文章なので、読んでいて落ち着かない。どこかに共感するところがないと、違和感だけが広がってくことになる。
いちばん違和感があったのは、「どうしてそんなに日本を背負ってムキになるのだろうか」ということ。日本の悪口に怒ったり、日本を褒められたら喜んだり。わたしだったら「言われているのは日本の悪口であって、わたしの悪口ではない」と思うけれど。中国人の姿勢が基本的にそうだから、というのはあるかもしれないが、「中国人は客観的になれない」と言いながら、それはあなたも同じじゃないですか。
中国人の悪口をおもしろおかしく語るだけでは、日本人と中国人の相互理解に資するところがない。日々中国人と接しているからこそ、いろいろ言いたいこともあるのだろうが、在中日本人がそういう本を出すというのはどうも引っかかる(まあ文藝春秋だからな)。飲み会の話題ならともかく、本を書くのであれば、その背後にあるものまで掘り下げるべきだと思う。そういうことが全く書いてないとはいわないけれど、「共産党が悪い」「中国政府が悪い」といったレベルの、いかにも文藝春秋に書いている中国嫌いの人の言っていること(←読んだことがないので想像)みたいな内容だし、根拠を提示するわけでもなく決めつけているだけ。しかも、ものを見る目がことごとく日本を基準にしている。中国に住んでいる人には、面積や人口や成り立ちが日本とは全く異なる中国をみる、別の視点を提示してほしいと思う。
反日についても、研究者がいろいろ分析して、「背景には政府に対する不満がある」とかなんとか言うのはいい。でも一日本人が日本のことをタナに上げて反日についてああだこうだ言うことについては釈然としない。たとえ反日運動にいろいろな問題があるにしても、彼らにそうさせる原因は確かにあるし、日本がまともな謝罪も賠償もしていないのは事実である。そういうことをもっと謙虚かつ真摯に受け止めるべきではないのか。周恩来が賠償を放棄したからといってそれで無罪放免になったわけではないし、ODAなんて関係ない。こういうことを書くと「自虐的」とか言われるワケのわからない世の中だが、あんたらの大好きなニッポンでは昔から「自分に厳しい」ことが美徳とされてきたのではなかったか。