実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『孫文 - 100年先を見た男(夜・明)』(趙崇基)[C2007-44]

新宿へ移動し、ジュンク堂へ。「台湾ブックフェア」を覗くが目新しいものは何もなく、代わりに『女優魂 中原早苗[B1364]を買う(そんなすごい本が出ていたとは)。セガフレードで喉を潤してからシネマート新宿へ。

今日の2本めは『孫文 - 100年先を見た男(夜・明)』。去年ペナンへ行ったとき、“夜・明 Road to Dawn Filming in Penang”[B1282]というロケ地本を見つけ、とりあえず買っておいたが、その映画が突然公開されたのだ。全編ペナンロケということで、観ないわけにはいかない。

映画は、日本から追放された孫文が、1910年7月から12月までペナンに滞在していた時期を描いたもの。9度もの蜂起に失敗し、支援者の信頼を失った孫文が、中国人富豪たちをふたたび動かして資金を調達するまでの物語に、彼を支える女性、陳粹芬や、彼に影響を受ける華人カップルなどを絡めて描いたメロドラマ風感動巨篇。映画として語るべきことはほとんどない。監督は、『ぼくたちはここにいる(三個相愛的少年)』[C1994-68]の趙崇基(デレク・チウ)だが、なんでまたこんな大作っぽい中国映画を撮っているんだか。

孫文に関しては、彼の革命への道で最も暗い時期(つまり夜明け前)を描いていると思われるが、時として苦悩がうかがえるにしても、その信念のゆるがなさが立派すぎて親近感がわかない。また、たび重なる失敗で、かつて支援してくれた人たちを失望させた孫文は、ふたたび信頼を得るために新たな戦略を打ち出すわけではない。おそらくこれまでとほとんど変わらないわかりやすいお話を演説のパワーで盛り上げて、その場の熱気で人々を動かしてしまうのだが、そのお話がやたらとナショナリスティックで賛同できないので、ぜんぜん感動できない。ちなみに、孫文を演じているのは「孫文俳優」の趙文瑄(ウィンストン・チャオ)。

孫文に影響を受け、彼を助ける富豪の娘、徐丹蓉を演じているのは李心潔(アンジェリカ・リー)。マレーシア華人という彼女の背景、人気、実力、知名度すべてにおいて、この役をやるのは彼女しかないと思うが、年齢設定に問題がある。最初、婚約者といちゃいちゃしていたので20代前半くらいの役かと思ったが、なんと中華学校に通うなんちゃって女子高生だった。しかも婚約者はその学校の先生なのに、学校でいちゃいちゃしている。これでは『孫文』ではなくて『高校教師』である。

この映画の魅力は、全編にわたるペナンロケである。残念ながら、映画として印象的なシーンがほとんどないので、「あのシーンのあの場所がすばらしい」というのはない。しかし、主要なロケ地は行ったことのないところだったものの、知っているところが次々に出てきてうれしい(詳細は別記事で)。街並みに少しだけ手を加え、注意深くコムタが写らないアングルさえ選べば、百年前の物語が撮れてしまうペナン(ジョージ・タウン)というところはかなりすごいと思う。

これだけ大々的にペナンロケをしているので、それなりに時代考証はしているものと思うが、けっこう気になるところがあった。丹蓉は、最初のパーティでの服装などからプラナカンと思われるが、孫文が徐氏に「あなたは中国大陸からやって来た」みたいに言うところがあったり、この一家の名前が北京語読みだったりするのが疑問だった。李心潔の肌の露出の多さも気になる。

また、誰もが英語以外は北京語を話していて(「カムシャー」とか言っているところもいちおうあったが)、ほんとうは何語を話しているのだろうというのがとても気になった。実際は、広東語や福建語をはじめとしてかなり多様な言語が使われていたと思うし、そもそも中華学校では何語で教えていて、孫文は何語で演説をしたのだろうか。中国映画であるこの映画では、端から気にしていないと思われるけれども。

映画のあとは、王ろじでとんかつセットを食べて帰る。