実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『顔役』(石井輝男)[C1965-V](DVD-R)

昨日から、「明日は加藤泰の『江戸川乱歩の陰獣』[C1977-14]を観るぞ」と決めていたのに、勘違いだったらしくうちにはないことがわかった。代わりに、石井輝男監督の『顔役』(goo映画)を観る。映画の友は、SWEET TOOTH(公式)のミニ葉山ロール。

鶴田浩二高倉健大木実江原真二郎待田京介曽根晴美長門裕之天知茂、安部徹、遠藤辰雄、内田朝雄という超豪華キャストの、でもタンバが出ていないのが致命的な洋服ヤクザ映画。冒頭から、『東京ギャング対香港ギャング』[C1964-21]そっくりの音楽で健さんが登場する。

ヤクザ映画だからか、鶴田浩二石井輝男の現代劇にしては渋い。健さん鶴田浩二の舎弟だけど、まだかなりチンピラ度が高く、頼りになるというよりは、迷惑をかけられて命取りになるという、長門裕之や張學友(ジャッキー・チュン)タイプの弟分。失言が多すぎると鶴田浩二から言われているが、「失言なら大臣もする」という台詞が笑える。

一番光っているのは待田京介。顔に醜い傷のある、笑わない、凄みのある男だが、拾った犬を可愛がるところや、少し頭の弱いホステス、藤純子とのシーンが好対照をなしている。藤純子からの子供じみたプレゼントが、息をひきとるシーンで生きるところも秀逸。自分の名前を書いてもらうのに、「そんな下品な「テツ」じゃねえよ、「哲学」の「哲」だ」と言って登場し、いつも意味あり気な目つきをしている江原真二郎もなかなかがんばっている。一番気の毒なのは大木実。足を洗ってカタギになっているという設定だが、戦友の鶴田浩二が訪ねてきて、「カタギになれてよかったな」「巻き込みたくはないんだ」と言いながら頼みごとをする。そうしたらふつう、最後にカタギの生活を捨てる羽目になるんだなと思うが、そんなことは全然なくて、単にちょっと迷惑を被るだけ。J先生は、いつもと違っておちゃらけたところのない悪役の遠藤辰雄を応援していたが、あっさり殺されたので映画を放棄してブログなどを書いていた。

女優陣は、藤純子佐久間良子三田佳子藤純子はめずらしく洋服で、しかもイモっぽい役だが、さすがに一番印象に残る。鶴田浩二の妻役の佐久間良子は盲目だが、物語上ぜんぜん意味をもたない。無駄に盲目。一番出番が多いのは、大木実の妹で健さんの元恋人という三田佳子だが、これはぜんぜん冴えない。

関西のヤクザを相手に戦っていたはずが、実は親分、安部徹に利用されていたことがわかって…といったストーリーで、それ自体はけっこうおもしろい。しかし、複雑に絡みすぎというか、エピソードがてんこ盛りすぎていまひとつ締まりがない。悪者が次々に、すごくあっさり殺されてしまう点が新鮮。我慢を重ねて最後に殴り込むというタイプではないので、一人やっつけるのにいちいち時間をとっていられないということなのかもしれないが、殺し屋に殺られる場合はともかく、銃撃戦でもいきなり大物が殺されたりする。でも、江原真二郎が殺されるシーンや安部徹が殺されるシーンは、なかなか凝っていてかっこいい。石井輝男の映画だから、多少ストーリーが破綻していてもまあよくて、細かいところがいろいろ凝っているので、大きなスクリーンで観たらかなりおもしろそう。どこかでやってください。

ところで「顔役」って誰のこと?