実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『東京ギャング対香港ギャング』[C1964-21]と『ならず者』[C1964-31]

5月は一本も映画を観なかった。『グラン・トリノ』も『新宿インシデント』も観たいのだが、なんとなく観ないままに終わりそう。しかし新文芸坐(公式)の特集「孤高のスタア 高倉健」で『東京ギャング対香港ギャング』と『ならず者』の二本立てをやるとなれば、仕事を投げ出してでも行かないわけにはいかない。どちらも映画館で観ているが、上映される機会は少ないし、DVDも発売されていない。『ならず者』は録画のDVD-Rがあるが、『東京ギャング対香港ギャング』は8ミリヴィデオしかなく、すでにデッキがないのでもう長いこと観ていない。

このプログラムを知った日に速攻で有給休暇を取り、数日前からは頭の中で「ギャング、ギャング」とつぶやいて、地に足が着いていなかった。朝遅めに出かけ、池袋パルコのカフェで早めの昼ごはんを食べ、超久しぶりの新文芸坐へ。エレベータに乗るところですでに客層にうんざりしつつ、『東京ギャング対香港ギャング』→『ならず者』→『東京ギャング対香港ギャング』と延べ三本を観る。カラーの『東京ギャング対香港ギャング』は赤白映画になっており、『ならず者』は冒頭のシーンが切れていた。

映画館で観るのはいずれもまだ2回め(と3回め)だが、ヴィデオなどで何度も観て、すでにいろんなところに書いている。特に『東京ギャング対香港ギャング』については、[『東京ギャング対香港ギャング』について熱く語る](LINK)にまとまって書いており、付け加えるべきことはあまりない。ただし、同時に観たのははじめてなので、対比的に気づいたことなどを簡単に記しておきたい。

  • 物語や映画としての完成度は、断然『ならず者』のほうが上である。しかしながら、今回観なおしてみて、『東京ギャング対香港ギャング』もそんなに悪くないと思った。香港・澳門篇と東京篇とで、テンションも精彩も大きく異なるのは事実だが、ずっとそう思いこんでいたように、東京篇のストーリーが破綻しているというわけではない。鶴田浩二がヤク中という設定があまりに唐突で納得いかないだけで、潜入警官モノ+用心棒的ストーリーは十分におもしろい。
  • 香港・澳門での言語は、『東京ギャング対香港ギャング』が広東語で、『ならず者』が北京語。この時代、映画も北京語映画が主流だったし、北京語話者はそれなりにいたと思われる。しかし、たとえば『東京ギャング対香港ギャング』の香港ギャングが昔から香港にいるギャングだとか、『ならず者』の丹波哲郎や安部徹が戦後大陸から来たギャングだとか判断していいものかどうかはわからない(そもそも言語が違うことがきちんと認識されていたのかどうか)。なお、『ならず者』には挨拶などで広東語が混じっているが、これも実情を反映してのものなのかどうかわからない。
  • 両者に共通するキャストは、高倉健丹波哲郎で、どちらも超かっこいい。健さんは、『日本侠客伝』で任侠スターとして売り出されるまではいまひとつぱっとしなかったと言われている。しかしこの二作品の健さんは十分かっこいい。洋服姿の健さんでは、後にも先にもこれ以上のものはないと思う。
  • 丹波哲郎は、両作品の役柄がかなり異なる。『東京ギャング対香港ギャング』では、もう「これぞタンバ」という役。ほかの人ではぜったいに代わりになれない。本人も自分のための役であることを十分に意識し、完璧に演じている。一方『ならず者』では、好きな女に裏切られて彼女を殺し、生きる意欲を失う男という真面目な役柄。命を犠牲にして健さんを助けようとするが、ふたりのあいだにホモエロティックあるいはホモセクシャルな雰囲気はない。『東京ギャング対香港ギャング』でも、タンバと内田良平鶴田浩二との深い絆が描かれるが、やはりホモエロティックあるいはホモセクシャルな雰囲気はない。
  • 『東京ギャング対香港ギャング』にはほとんど女性が登場しないが、『ならず者』には南田洋子三原葉子という二人の女性が登場し、どちらもなかなかいい。
  • しかし杉浦直樹に魅力がないので、この役がもうひとつ中途半端。じゃあ誰だったらいいかというと、なかなかいい人が思い浮かばない。位置づけ的には内田良平でもいいが、ぜったいに警察には見えないのが問題。中谷一郎あたりがいいかも。ところで、このころの杉浦直樹金城武に似ていると思う。カネシロもそのうちああなるぞ。似ているのは目元とかだと思うので、それでアタマまで似たら悲劇だけど。
  • 『東京ギャング対香港ギャング』の鶴田浩二は、ヤク中シーンがすごすぎて、そのあとも活躍シーンがあったことをすっかり忘れていた。この映画の鶴田浩二は、かっこ悪いことはかっこ悪いが、思っていたほど悪くないと思った。それより、よくこんな役を引き受けたと思う。でもこの禁断症状シーン、すごく石井輝男っぽくてなかなかよく、回を重ねるごとに惹きこまれた。

というわけで、約5時間堪能した。『東京ギャング対香港ギャング』の内田良平大木実、『ならず者』の江原真二郎を見るためだけにでも、わざわざ池袋まで足を運ぶ価値がある。こんな映画史上に残る大傑作二本立てを観に行かなかった人は、大いに後悔&反省してください。これらの映画のDVDを出さないのは、ほとんど犯罪だと思う。