実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『TATTOO -刺青-(刺青)』(周美玲)[C2007-02]

仕事を早めに終わり、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2007(公式)へ。スパイラルホールで周美玲(ゼロ・チョウ)監督の『TATTOO -刺青-』(LINK)を観る。レズビアン&ゲイ映画祭は実は初めてなのだが、今年は台湾映画が三本も上映されるので、そのうちの未見の二本を観ることにした。観客は女性が非常に多かったが、レズビアン映画だから観に来ている人たちといつもの中華おばさんとが混じりあっている感じ。字幕映写機の故障だとかで30分遅れで始まったが、無事に日本語字幕はついていた。上映開始前に、「携帯電話はマナーモードに設定のうえ、必ず電源をお切りください」という摩訶不思議なアナウンスがあった。

主演は楊丞琳(レイニー・ヤン)と梁洛施(イザベラ・リョン)。子供の頃に母親に捨てられたこと、地震による家族の死や精神的な病、それらと結びついた初恋の記憶。彼女たちが抱えているものは、情報としては一応与えられているのだが、それらがリアリティをもって描かれていないので、全然こちらに訴えてこない。安易な回想シーンの多様など、描き方そのものにも問題があるが、楊丞琳の子役をやった女の子がひどいこと、高中時代の梁洛施にいまひとつ魅力が感じられないこと(短めな髪のカツラのせい?)、梁洛施の北京語が吹き替えである(ですよね?)ことなども大きな原因だと思う。特に梁洛施の北京語は、「日本生まれだからちょっと発音が変」という説明がされているにもかかわらず、何故吹き替えにしたのだろう?この映画の中での梁洛施の存在感にとって、この吹き替えは相当なダメージになっている。

楊丞琳のキャラクターも、内面の屈折はあるものの、見た目は「はじけた不思議ちゃん」。彼女の魅力を十分生かしたものになっていないし、そもそも不思議ちゃんはもういい。インターネット、心の病、同性愛などが出てくる点、コミカルなシーンやCGなど、どうでもいいところで不要な凝り方をしている点、そのわりに全体的なつくりは凡庸である点など、いかにも最近の若い人が撮った映画という感じ。ベルリン国際映画祭でテディ賞を受賞したということだが、同性愛がテーマではない点からも映画のレベルからも、ちょっと納得しがたい。

英題が“Spider Lilies”で、彼岸花の刺青がテーマのひとつなのだが、刺青、日本人の彫師、彼岸花、竹など、日本イメージをちりばめているわりには黄色い彼岸花なのが不思議。地獄のイメージなのは、やはり赤い彼岸花ではないだろうか。それに日本人の彫師といえば、やっぱり信欣三でしょう。