有楽町朝日ホールで、于廣義(ユー・グァンイー/ユー・グアンイー*)監督の『独り者の山』(東京フィルメックス)を観る。第12回東京フィルメックスのコンペティションの一本。
『最後の木こりたち』[C2007-18]、『サバイバル・ソング』[C2008-30]に続き、于廣義監督が故郷である黒龍江省の山岳地帯の人々を描いたドキュメンタリー。
今回の主人公は、三梁子(サンリアンズー*)(←サイトの解説では「サン・リャンツー」と中点がついていて気持ち悪いが、これはニックネームみたいなものですよね?)46歳(バツイチ、日雇い)。彼の熱い片思いの日々が描かれる。相手の女性は近所に住む29歳の独身女性。農村ステイの宿を経営して、朝ドラの糸子のようにバリバリ稼いでいる。男性のようなショートヘアでファッションにも女っ気がなくて、別に器量は悪くないのに男性にも結婚にも興味を示さない。「もしかして」「いや、そんなにわかりやすくないでしょ」…とひとりで葛藤していたら、意外にあっさりと彼女がレズビアンであることが明かされた。しかし、中国の田舎ってほんとに多様だよね。
三梁子は愛すべき人物だけど、女性の視点からいえば、悪いけど男としての魅力はない。相手がレズビアンであるからには、三梁子がどんなにイケメンでも望みはないけれど、そのことを措くとすれば、使える男ならいいが、便利な男になっちゃ駄目、というのがわたしが彼に贈るアドバイスだ。「彼女が、「わたしたち(‘咱們’ですかね)」と自分を含めて家族の一員のように呼んでくれるから、いつも手伝いに行っちゃうんだよ」と彼は嬉しそうに語っていたが、それって便利に使われてるだけですから。家族みたいなものだから、手伝ってくれるのも当然で、代償としてヨメにならなきゃいけないというようなプレッシャーは全く感じていないということです。でもまあ三梁子はすべてわかったうえでデレデレしているから、きっと一生彼女にこき使われることでしょう。それはそれで悪くない一生かもしれない。
前作と同様、インタビューをまじえて個人を描くというスタイルだが、比較するなら、不特定多数がインタビューなしで描かれていた『最後の木こりたち』のほうが好きだ。
上映後、于廣義監督をゲストにQ&Aが行われた。あいかわらずインテリっぽい雰囲気の人。今後も故郷の人々を撮り続けていくということで、この人にはドキュメンタリーかフィクションかといった選択肢は最初からないんだろうと思った。また、天性のセンスをもっているけれど、映画としてスタイルを追求しようとか、そういうこともきっと考えていないんだろうと思った。