実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『戦後台湾における「日本」- 植民地経験の連続・変貌・利用』(五十嵐真子、三尾裕子・編)

『戦後台湾における「日本」- 植民地経験の連続・変貌・利用』読了。

戦後台湾における〈日本〉―植民地経験の連続・変貌・利用

戦後台湾における〈日本〉―植民地経験の連続・変貌・利用

2005年に開かれた国際ワークショップの成果である本書には、9本の論文が収められている。台湾における植民地体験や日本認識、日本語の役割などの分析から、お墓の形の影響や、東本願寺(真宗大谷派台北別院)がいかにして獅子林商業大樓になったかといったものまで多様な内容。

そのなかで、上水流久彦:『自画像形成の道具としての「日本語」- 台湾社会の「日本」を如何に考えるか』から、興味深い部分を引用しておく。

現時点では、台湾の人々において「日本」は自己を主張しようとするときに認識せざるを得ない、引き合いに出さざるを得ない「他者」でもなければ、その「自己」にとって「否定しようとしてもしきれない、愛憎並び向う対象」でもない。自他の人間関係の構築のうえで利用されるひとつの記号でしかない。(p. 207)

…台湾の自画像に植民地時代の「日本」が使われるとしたら、その成立には国民国家という制度、ナショナリズム、資本主義、中華思想など様々な問題が関与しているのである。したがって、ある植民地的な要素が旧植民地に存在したとしても、それを植民地支配と関連づけて、「旧宗主国のものが現在も旧植民地に影響している」と述べることにさほど意味はない。どのような経済的、政治的仕組みや思想、主義がその植民地的な要素を存続させているのか分析することがより重要となる。(pp. 210-211)