実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『闘牛に賭ける男』(舛田利雄)[C1960-49]

フィルムセンターへ移動。今度は日活アクションの特集だと大喜びしていたくせに、今まで一度も行っていなかった。観るべきものはたいてい観ているし、DVD-R等で持っているのも多いし、なかなか予定も合わないし…という感じでひと月以上が過ぎて、やっと観たのが『闘牛に賭ける男』(映画生活)。石原裕次郎二谷英明の組み合わせは日活映画では最悪だが、海外ロケ映画を観るのは私のライフワークなのだ。満席ではなかったが、ホールの真ん中を「裕次郎ファンクラブ」みたいなおばさん(おばあさん)たちが占めていて、異様な雰囲気だった。

滅多に上映される機会のない映画なので、もっとトホホなイロモノ映画なのかと思っていたが、意外におもしろかった。「闘牛に賭ける男」といいながらほとんど北原三枝が主役。私は『月は上りぬ』と『狂った果実』(asin:B00006G90I)の彼女が好きなのだが(ちなみにこの二作では、役柄も雰囲気も全く異なる)、女優が添え物の日活にあって、彼女はその後あまりふさわしい役を与えられてこなかったように思える。最後の映画となる本作は、目の下のアイラインが恐いとか少し眉毛を抜いたほうがいいのではとかいろいろ思うところはあったものの、なかなか魅力的に撮られている。将来、裕次郎とくっつくことを匂わせてはいるものの、ひとりで自分の道を歩いていくラストもいい。結婚引退前の映画なのに、劇中、結婚前の最後の舞台のはずが結婚を延ばして女優を続けるところや(相手が二谷だったからいいのか)、最後も裕次郎と結ばれておめでたく終わったりしないところなど、監督もなかなか大胆である。

私は基本的に回想シーンというものが好きではないのだが、凝りまくった回想シーンの入れ方はなかなか楽しめた。特に、北原三枝石原裕次郎が別れる上野駅のシーンが二度出てきて、裕次郎が飛び降りて汽車が遠ざかっていくところが異なるアングルで撮られているのがおもしろかった。

当時の海外ロケ映画はたいてい航空会社とのタイアップで、不必要に機内シーンなどがあるのが通例だが、この映画はほかに類をみないほどに露骨である。最初に「この映画はスカンジナビア航空の協力で作られました」といったテロップが出たと思ったら、ファーストショットがいきなり飛んでいるSASの飛行機。スカンジナビアが舞台でもないのに、登場人物のすべての移動はスカンジナビア航空スカンジナビア航空を褒めたたえる台詞がなかったのが残念だ。

『闘牛に賭ける男』もおもしろかったけれど、やっぱり『闘牛に賭ける男』より『赤道を駈ける男』である。ぜひDVD化してほしい。ロケ地がブラジルなのも、主演が小林旭なのも、丹波哲郎が出ているのもいいが、ヒロインが若林映子なのもいい。日本映画データベース(LINK)で調べたら、これは彼女の最後の映画のようで、このふたつはタイトルだけではなく、いろいろ共通点があるらしい。

上映後、舛田利雄監督のトークがあった(詳細は次項(id:xiaogang:20060909#p1))。「最後に観客のみなさまに何か」と言われて、「別にありません」と言っていたのが印象的。舞台挨拶とかトークとかではよく司会者がこう言うが、そんなこと言われても困るよな、といつも思っていただけに、この反応はなかなか痛快だった。