実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『幕末太陽傳』(川島雄三)[C1957-39]

ヒューマントラストシネマ有楽町で、川島雄三監督の『幕末太陽傳』(公式)を観る。主演がフランキー堺の映画は観ないことにしているので今まで未見だったが、デジタル修復したというし、川島雄三だし、小林旭も出るし…ということで観ることにした。

幕末太陽傳 [DVD]

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舞台は幕末の品川宿遊郭・相模屋。居残り佐平次(フランキー堺)が何でも金と引き換えにして活躍する軽妙な喜劇で、たしかにおもしろいけれど、やっぱりフランキー堺が苦手。森繁久彌植木等ほど濃くはないが、あの四角い顔をお金を払って見たくないし、人を見下したような感じも嫌い。ちなみにわたしは、だいたいにおいて喜劇役者というのが苦手である。

出演者のなかでいいのは、左幸子南田洋子芦川いづみのきれいどころ。左幸子南田洋子は一番人気を競う女郎だが、女優のイメージとは逆に、南田洋子のほうが客を選ばず稼ぎまくる売れっ子で、左幸子のほうが選り好みしすぎて落ち目気味というのがおもしろい。この遊郭にはこの二人以外にロクな女郎がいないので、主人夫婦が女中のいづみさまをなんとか女郎にしようと画策するのも無理はない。

そのいづみさまは、薄幸な風情を漂わせてはいるが、実はフランキーをもはるかに凌ぐたくましさ。いよいよ女郎にされそうになると、遊郭の放蕩息子のヨメにしてもらおうと思いつき、「お女郎になるよりは若旦那のおかみさんになったほうが…」とか「そうすればおとうさんの借金も帳消しになるし…」などと真顔で言う。自分の容姿やイメージを考えあわせたうえで、好きなふりをしたりするよりも正直に言ったほうがインパクトがあって勝算もあるとしっかり計算している。しかもフランキーが肺病で死にそうなのを見越して、駆け落ちを助けてくれたお礼は10年後に払うと言う。フランキーも若旦那も観客もみーんな騙されているけれど、あれは全部計算です。

出演者のなかでよくないのは、石原裕次郎二谷英明小林旭といった若手スターたち。攘夷派の志士たちを演じているが、全体の軽妙洒脱な雰囲気から彼らだけ浮いている。裕次郎高杉晋作役だけど、『狼火は上海に揚る』[C1944-08]好きとしては、高杉晋作といったら阪妻である。裕次郎なんてちゃんちゃらおかしい。第一、裕次郎に時代劇は似合わない。そもそも裕次郎の魅力がよくわからないけれど、現代青年を演じるからこそそれなりに魅力を発揮できるのであって、時代劇ではぜんぜんダメである。お目当てのアキラはといえば、まず髪型がヘンだ。浪人風のポニーテールみたいな髪型でも、裕次郎は全体に毛があるけれど、アキラはちょんまげと同じく脳天ハゲで、これが妙に似合わない(いかにも「カツラです」という感じ)。少ない出番のほとんどはがなっているし、演技もかたくて残念でした。