実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『青春怪談』(安部豊)[C1955-29]

神保町シアターの新年の特集は「新春!喜劇映画デラックス」(公式)。喜劇というのは、観たら観たでおもしろいけれど、わざわざ観たいという気にはあまりならない。喜劇は実生活で体験すればいいわけで、実生活では体験したくない悲劇こそ映画で観たい。特に今回は、森繁だのフランキーだの、お金もらっても見たくないような人の作品が並んでいて、ぜんぜん食指が動かない。しかし安部豊版『青春怪談』だけは観たい。といっても、たまたま市川崑版『青春怪談』[C1955-15]を観ていて、かつ阿部豊版がレアだから、というだけの理由であって、この話が好きなわけではない。市川崑版を観たのも、ふつうなら市川崑の映画なんて観ないのに、いづみさまが出ているというので無理矢理連れて行かれたのだ。

というわけで、安部豊版『青春怪談』を観た。市川崑版よりポップでモダン、全体としてはこちらのほうがいい。高峰三枝子宇津井健親子の洋風な家も、上原謙&安西郷子親子の和風な家もなかなかいい感じ。

キャストに関しては、阿部豊版のほうがいいものもあるし、市川崑版のほうがいいものもある。まず中年カップルの鉄也と蝶子は、圧倒的に阿部豊版の高峰三枝子上原謙に軍配があがる。市川版は轟夕起子山村聰で、轟夕起子はほとんどバケモノ。彼女のパートは下品なコメディになっていたし、山村聰ではロマンスの相手として魅力不足。その点、高峰三枝子上原謙は美男美女だし、高峰三枝子の天真爛漫ぶりも上品でかわいい。

青年カップルの慎一と千春は、わたしは阿部豊版の宇津井健&安西郷子よりも、市川崑版の三橋達也北原三枝が好き。ショートカットの安西郷子も、男っぽい役が似合っていてぜんぜん悪くないのだけれど、このころの北原三枝の早口トークやコケティッシュな感じがすごく好きだ。慎一のほうは、三橋達也はあまり日活のイメージがなくて新鮮だし、とにかく宇津井健がきらい。純粋に顔がきらいだし、このころは裕次郎の不出来なコピーみたいでさらにイヤだ。鉄也が慎一のことを「美男子すぎる」と言う台詞があるが、これは山村聰三橋達也なら成り立つが、上原謙宇津井健では全く成り立たない。誰が見たって上原謙のほうが美男子に決まっている。

その他で重要な役はシンデこと新子で、これは市川崑版の芦川いづみに軍配があがる。阿部豊版の江畑絢子はただの脇役だった。いづみさまのシンデは、超鬱陶しかったよね(褒めてます)。

阿部豊版にはほかに丹波哲郎三原葉子が出ていて、やったーと思ったけれど、タンバはオカマのバーテン、三原葉子はいぢわるバレリーナで、ちょいと期待はずれ。

市川崑版の記憶はほとんど轟夕起子といづみさまなので、こんなホモフォビアものだということはすっかり忘れていた。しかしさんざん騒いだあげく、生理があれば女だなどというお手軽な解決は、ちょっと今では考えられない。40代後半から50代前半で老人扱いされるのも、今では考えられないひどさ。今ならまだ青春真っ盛り、だよね。