実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『日本俠客伝 花と龍』(マキノ雅弘)[C1969-27]

お茶のあとの3本目は、『日本俠客伝 花と龍』(映画生活/goo映画)。

日本侠客伝 花と龍 [DVD]

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『花と龍』といえば、加藤泰の『花と龍 青雲篇 愛情篇 怒涛篇』[C1973-08]を観ているが、あまりおもしろいとは思わなかった。だいいち玉井金五郎にマンという、登場人物のすごすぎる名前が引っかかる。しかしながら、予想に反してマキノ版はおもしろかった。マキノ版は原作小説の最初の部分で、加藤泰版はもっとあとの部分だと思われる。

『日本俠客伝』シリーズの一本なので、最後は殴り込みで終わるという仁侠映画のスタイルをとっているが、どちらかといえば青春映画というイメージが強い。日露戦争直後の九州が舞台で、石炭産業が元気だったころの時代の空気が感じられ、その時代の若々しさみたいなものが、登場人物たちの若さにうまく重ね合わされている。

キャストはまた少し豪華になっていて、津川雅彦ややまりん(山本麟一)も出演しているし、天津敏が期待通りの悪役をきっちり演じているのが嬉しい。そのほかは、星由里子、二谷英明、高橋とよと、豪華というより異色である。高倉健二谷英明という組み合わせはどうみてもミスマッチだが、二谷は例によって女を取られて裏切る役なので笑ってしまった。役のイメージで呼ばれたのだろうか。最後に寝返って健さんを助けるのだが、ふつうなら観客を喜ばすこのような設定も、二谷だと信用できなくてどうも喜べない。

高橋とよは女親分で、一声で天津敏をタジタジにするところがさすがは高橋とよである。『日本大俠客』[C1966-32]では鶴田浩二だった吉田磯吉親分が、ここでは若山富三郎に替わっているのが解せない。

ヒロインは星由里子。色気はないが、勝ち気で男と同じように働くマンの役を好演している。マキノも気に入っていたらしいが、東宝で若大将の添え物をしているよりずっといい。星由里子といえば冷風扇だが、最近めっきり見なくなった。やはり売れなかったのだろうか。一方、お色気部分を受け持つのが藤純子。お竜さんをもうちょっと色っぽくしたような壺振り兼彫師役で、ファム・ファタルのごとく健さんの行く先に現れる。健さんもどこか惹かれているのだが、結局なびかないのが健さんらしい。

上映後に、マキノ監督の長女、マキノ佐代子さん(元女優)と山根貞男氏のトーク・イベントがあった。朝は思いのほか観客が少なかったが、だんだん増えてこの回はほぼ満員。客席には、マキノ監督の奥様や澤井信一郎監督の姿もあった。トークの内容はだれかが採録していると思うので詳しくは載せないが、家庭でのマキノ監督について。家はセットで、主演女優はおかあさんで、娘たちは助監督以下のスタッフだった…というような話。なかなか楽しいトークだった。

J先生と合流して、天龍で餃子を食べて帰る。