実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『キングス&クイーン(Rois et Reine)』(Arnaud Desplechin)[C2004-41]

天龍で餃子を食べたあとはシアター・イメージフォーラムへ。アルノー・デプレシャンの新作、『キングス&クイーン』(公式)を観る。前作『エスター・カーン めざめの時』(asin:B00006K0HM)がいまいち好みではなかったので、『そして僕は恋をする』(asin:B00009WL23)以来の待ちに待った新作ということになる。そして今回は期待を裏切らなかった。月並みな言い方だが、いろんな意味で「フランスならでは」の映画。そして観るたびに新たな発見がありそうな映画。

35歳の女性、ノラの父親が、末期癌であることがわかってから亡くなるまでの数日間と、ノラの別れた夫、イスマエルが、突然精神病院に入れられてから退院するまでの数日間とが並行して描かれ、ふたりがそれぞれ再出発するところで終わる。その中に回想シーンや夢を挿入しながら、ノラの半生が語られていく。このふたりを演じるのが、『そして僕は恋をする』と同じエマニュエル・ドゥヴォスとフランスの三上博史ことマチュー・アマルリックなのが楽しい。

物語自体はおもしろいわけでも楽しいわけでもなく、かなり重くて辛い内容だ。にもかかわらず、この映画はまず第一にすごくおもしろい(もちろん、血沸き肉踊るタイプのおもしろさではないが)。また、どちらの話も、考えてみればすごく大変な、非日常的な出来事で、怒涛の数日間であるわけだが、表面上はあくまでもさりげなく淡々と、いつもの日常生活のように進む。ポップな軽さとも軽薄な軽さとも違うけれども、軽やかで重くない。

そのおもしろさ、軽さの下で、いろいろな人間関係が重層的に描かれている。血縁関係、結婚や養子といった法律で規定される関係、そのどちらでもない関係。男女関係、親子関係、友人関係。その中には、喜びも悲しみもあり、理不尽なまでの憎しみもある(これがまたフランス映画ならでは)。それらに心を動かされたり、何かを感じ取ったりしてもいいけれど、抽象化したり集約したりすることはためらわれる。提示される個別的で具体的な事例を、あくまでも個別的で具体的な事例として味わいたい映画である。

長い映画を2本観て疲れたあとの晩ごはんは、定番のとんきのひれかつでしめる。