実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『クリスマス・ストーリー(Un Conte de No�l)』(Arnaud Desplechin)[C2008-42]

昨日から東京フィルメックスが始まっているが、わたしの参加は今日から。でもその前にまず恵比寿へ。恵比寿ガーデンシネマで、アルノー・デプレシャン監督の『クリスマス・ストーリー』(公式)を観る。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ。デプレシャンの新作なら無条件に観たいがドヌーヴは苦手。なのでちょっと恐々という感じ。

母親のジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)がガンになり、家族全員が実家に集まったクリスマス前後の数日を描いたもの。この集まりは、単に母を気づかうためのものではなく、骨髄の検査結果を持ち寄って、だれがジュノンに骨髄を提供するかを決めるためのものだ。そもそもこのヴュイヤール家の長男ジョセフは白血病のため幼くして亡くなっており、その不在が呪いのように一家に影を落としている。彼に骨髄を提供する目的で作られたものの、生まれる前に型が適合しないとわかった次男アンリ(マチュー・アマルリック)は、不要な子供として母親から嫌われて育ち、姉エリザベート(アンヌ・コンシニ)との確執の末に家族から追放されている。これに温和な父アベル(ジャン=ポール・ルシヨン)と末弟イヴァン(メルヴィル・プポー)を加えた家族に、いずれも個性的なパートナー、子供たち、さらに従兄のシモン(ローラン・カペリュート)が一堂に会する。映画は、ジュノンとアンリ、エリザベートとアンリを中心に、イヴァンの妻シルヴィア(キアラ・マストロヤンニ)をめぐる男たちの話などもまじえて、この数日間に起こるいろいろな騒動と家族の関係の変化を描いていく。

家族が集まる祝祭日や儀式をきっかけに、家族の関係が変化していくような話は多いが、どちらかというと、平和に見えた家族に波風が立って崩壊していくものが多いように思う(具体例を検討していないので、単なる印象)。しかしこの映画は、もともと波風が立っている家族が、お互いかなり言いたいことを言ったあげく、なんとなくうまく収まっていくというもの。その収まっていきかたは「おフランス的」としか言いようがない。デプレシャンの映画は全部そうだけれど、とにかく隅から隅までおフランス的。

おフランス的」ということばで片づけるのは大雑把すぎるが、突き詰めれば、自分も相手もまず個人としてみて尊重するということなのだろう。よく保守系の人や右寄りの人が、日本は個人主義が行き過ぎて家族が崩壊しているとか道徳がないとかなんとか言っているが、そんなのは真赤なウソである。個人主義がまだ未熟で自分だけ個人だと思っているから、いろいろと問題が起きるのだろう。

この映画はだれがジュノンに骨髄を提供するかを軸に話が進んでいくが、わたしに言わせれば、60歳を過ぎて骨髄移植をしなければ治らない病気になり、骨髄バンクに適合する人がいなければ、もう諦めるべきだと思う。兄弟や子供が自発的に申し出てきたら別だけど、老人のために若い人に負担を強いるべきではない。しかしジュノンは子供や孫に検査を強制し、型が合えば提供してもらうのが当然と思っている。その横柄なところがドヌーヴにぴったりだった。大女優としての、かつ体型的な貫録に加え、わたしがドヌーヴを嫌いなのがこのジュノンという女性への反感とうまく重なって、憎たらしくてよかったと思う。

出てくる人物はみな個性的でおもしろいが、あまり愉快とはいえない人物が多いなかで、アンリの恋人のフォニア(おなじみのエマニュエル・ドゥヴォス)が魅力的だった。見た目もますます豪快になってきたが、言動も豪快で楽しい。

ところでイヴァンの息子たちは、小学校に入るか入らないかの歳なのに、雌羊とヤったために腕を切られる王子の戯曲を書いて上演していた。家族みんなで拍手していたけれど、この子たちだいじょうぶなのか?

映画の舞台は、フランス北部のルーベ(Roubaix)。