Bunkamura ル・シネマで、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の『少年と自転車』(公式)を観る。
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2012/10/05
- メディア: DVD
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- 父親に捨てられた少年・シリル(トマ・ドレ)と、週末だけの里親・サマンサ(セシル・ドゥ・フランス)が家族になっていく話。
- ダルデンヌ兄弟の映画は、絶望のふちまで下りていって、ぎりぎりのところでちょっとだけ這い上がり、かすかな希望を感じさせる、というイメージである。それに比べると、今度の作品はいくぶん甘く、深みや暗さが足りないように思う。シリルもサマンサも、一度は挫折を味わうが、試練や苦悩が少なく、シリルが悟るのも早すぎるように感じる。
- わたしは血のつながりにあまり興味がないので、他人どうしが家族を形成していく話は好きだ。この映画では、サマンサがあまりにほとけさま過ぎるので、彼女には何か家族を作りたい理由があったのかなとか考えてしまったけれど、特に理由がないからいいのだと気づいた。彼女はもともと、偶然会った少年が探していた自転車を見つけてあげるような、人並み以上に親切な人である。しかし里親を引き受けたのは、自分でも言っていたように「頼まれたから」であり、家族がほしい理由とか、慈善の気持ちとか、そんなものが特別あったわけではない。頼まれて、流れのままに自然に引き受けて、それを全うしようと真摯に向き合っているだけだ。ふたりの運命が、偶然によってひょいひょいっと変わってしまう、その軽さがいいんだと思う。
- ダルデンヌ兄弟にはめずらしく、セシル・ドゥ・フランスというスターを起用したのは、どうしても「こんなほとけさまみたいな人はいない」と感じてしまうありえなさを、緩和しようという狙いだったのではないか。彼女の魅力はあまりよくわからなかったが、泣いてしまうシーンはよかった。
- シリルが父親に捨てられたことを決して信じようとしないかたくなさは、『冬の小鳥』のキム・セロンを思い出させる。彼女のかたくなさがあまりに徹底していたので、「シリル案外軟弱じゃん」と思ってしまったけれど、それもサマンサの存在ゆえだろうか。
- 全体のトーンとしては静かな映画なのに、ひとつひとつのシーンはアクション映画的というか、すごく身体的なところがおもしろかった。
- シリルがよく赤い服を着ていて、それがとてもかわいい。特にTシャツ。画面のなかでも引き立っていて、「赤い服を着なくちゃ」という、ちょっと浮き足立った気分にさせられる。
- いままでのダルデンヌ兄弟の映画より明るく感じるのは、風景によるところも大きい。いままではもう少しうす汚れてうらぶれた雰囲気(褒め言葉です)だったが、今回は明るく健康的で美しい、中産階級的郊外の雰囲気。ロケ地はリエージュらしい。
- シリルが年上の少年に見込まれて犯罪に加担させられるシーンで、「部屋に入れるのはきみがはじめて」などと迫られるので、ゲイ映画展開を確信してワクワクしていたらハズレだった。
- 邦題、『少年、自転車に乗る』にすればよかったのに。